論題
BM Debate GrandPrixⅣ 決勝戦
「東京都は、2016年オリンピックを誘致すべし。是か非か?」
講評:中村雅芳
肯定側:久保田浩
否定側:中村貴裕
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数 96名
肯定側(46.04P) 否定側 (53.99P)
■<概略>
日本に希望と夢を与えるオリンピックを誘致すべき、という肯定側に対し、現実に即していないという否定側。
■<肯定側立論>
◇哲学
┗◎オリンピック誘致は日本全体に活気と自信をもたらすものである
◇プラン
┣①東京都のオリンピック基本方針に則る
┣②3環状線の整備を進める
┗③オリンピック精神を培うための
教科書を作成し小中学校に配布する
◇実現可能性
┗◎IOCの評価基準に合致しているため実現できる可能性が高い
・レガシー : 既存の施設を極力利用する
・クラスター : 競技会場を特定地域に集中させる
・コストダウン: 新たに用地取得をしない
◇メリット
┣①国威発揚
・スポーツを通じて世界平和に貢献する
・オリンピックは感動の宝庫である
前回の東京オリンピックでは84.7%の視聴率を稼ぎ
国民の注目を一手に集めた
┣②東京都が住みやすくなる
・東京都の通行車両を14%削減できる
・地球温暖化に伴うCO2の削減ができる
┗③経済波及効果
・オリンピック開催で2.8兆円の経済効果
・物流コスト削減で4,000億円の経済効果
オリンピックの価値や注目度をアピールし 実現可能性も含めて現実的であることを
丹念に伝える立論であった。
■<否定側尋問>
理念に対し、定量化を厳しく追求する。
・国民の期待感や一体感はどの程度あるのか
・閉塞感をどの程度払拭するのか
また、現状についても追求がある。
・スキャンダルがあるが守られているか
・国民は望んでいるのか
国民の期待値を定量化するのは難しい。 否定側の強気な尋問が見られた。
■<否定側立論>
◇哲学
┗◎オリンピック誘致は東京都民の実態に即していない
◇メリットへの反駁
・いま問題があって夢はそれを解決するのか?そうではない
・オリンピックに夢はない。実体は不正だらけである
・東京都で開催する必要性がない
・国民が開催を望んでいない
◇デメリット
┣①税負担が大きい
・5兆円以上もの都市開発費用がかかる
・オリンピックの費用試算は難しい
ロンドンオリンピックでは費用試算を4倍に修正した
・運用費用が大きい
サッカーWCの競技場運営費はどこも大幅赤字である
┣②東京都は他にやることがある
・2016年は4人に1人が高齢者(65歳以上)になっている
彼らの希望は医療、福祉、子育て
オリンピックに予算を充てる余裕はない。
┗③オリンピック憲章に反する
・オリンピックは5大陸で開催されるべきである、という
憲章がある。今回ブラジルのリオデジャネイロが
立候補しているので、東京都は譲るべきである。
特に税負担については、招致費、運営費、大会後の状況などを スライドを用いて細かく分析した。 ただメリットへの反駁が肯定側のラベルに合わせていないため 分かりづらかった感は否めない。
■<肯定側尋問>
肯定側の柱である夢や希望の価値を追求する
・一体感や期待感があるのはいいことか
・オリンピックは世界一であることを認めるか
・大会が大きいほど注目があがるか
ただし否定側も簡単には誘導には乗らない。
一方、デメリットへは巧みに追求した
・オリンピックを開催したら福祉にお金は流れるか
・東京が立候補を取り下げたらリオデジャネイロに決定するのか
デメリットのインパクトを下げる、非常に効果的な尋問であった。
■<第一反駁~最終弁論>
以下3点での流れが続いた。
(1)夢/希望 vs スキャンダル
若い人ほど希望がある、オリンピック開催は後世に大きな希望をもたらす、
と希望を展開した肯定側と、 スキャンダルまみれのオリンピックに価値は無いとした否定側。
後世への希望を伝えた肯定側の主張はパトスに溢れていた。
一方でIOC委員や選手のスキャンダルを主張した否定側だったが、 IOC委員と選手のスキャンダルは事情が全く異なる。 この点を混同させた否定側の主張にはやや疑問が残った。
(2)東京の住みやすさ vs 福祉削減
車両規制で東京の渋滞を削減したい東京都、
東京の重点事業計画を提示した肯定側と 高齢社会への懸念を主張した否定側の争い。
この点、肯定側からは立論以降、具体的な主張は見られなかった。
一方で福祉削減を大きく主張した否定側ではあったが、
肯定側の尋問「オリンピック誘致を止めたら福祉予算は増えるのか」
に対して的確な回答を返せなかった。
(3)経済効果 vs 財政負担
5兆円以上の経済効果と物流コスト削減を謡う肯定側。
5.5兆円の費用をオリンピックのために使うことに納得しない国民の声を伝えた否定側。
様々な数値が羅列したためやや分かりづらさも残ってしまったか。
特に肯定側は全体の経済効果を言えればよかったが、それを細かく提示した
ことが、かえって全体像を見えにくくしてしまった。
一方、否定側は各目的毎の数値を提示し、全体として赤字であうことを明確にした。
■<判定と総括>
ジャッジを振り返ると、肯定側に分があった。
特に夢と希望を後世に伝えていくべきである、とした最終弁論で哲学を固めた肯定側。
一方で国民の声を細かくリサーチし、財政負担が大きいから反対していることを丁寧に反論した否定側。最終弁論の主張
「夢が無いからオリンピックを誘致するといった、国民への夢の強制は共感を得られない」
との声が聞き手に強く伝わったのではないか。
ビジネスディベートはロジックだけの勝負ではない。
正解を書けば先生から合格答案がもらえる学生時代と異なり、社会人になってチームやプロジェクトや組織を運営し、方向性を示すためには、 聞き手の心を掴み、それを分かりやすく伝えるコミュニケーションスキルや説得力を持つほうが勝者に なることを、中村は見せてくれた。
BURNING MINDのディベート大会では会場にいらした観客の皆様も勝敗を決する得票を持つからだ。 これもエンターテインメントビジネスディベートの醍醐味である。