講評

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論題

BM ディベートマニアⅤ  セカンドバーニング
「NHKは民放化すべし。是か非か?」

講評 : 奥山真

肯定側:V-インパクト 
否定側:ヒロッスィング・アクターズ・スクール
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 110名
肯定側 (67.79P) 否定側 (32.22P)

■<概   略>
肯定側は、目指すゴールを日本の健全な民主主義の向上とした上で、デジタル放送時代に おける競争は不可避であり、それこそがNHKが存続する道筋であるという哲学を掲げた。 それに対して、否定側は公共放送と商業放送の二元体制を維持することが国民の利益にな ると反論。哲学の大きさ、そしてプランの差が勝負の明暗を分けた。

■<肯定側立論>
◇哲学:NHK民放化は日本の健全な民主主義の向上につながる

◇プラン:NHKに関する記述部分の放送法の改定、全面見直し
  ① NHK受信料の定義を変更、放送受信の対価してNHK放送を有料化(2500円/月)
※未払いの場合、電波スクランブルによって放送サービスを停止
  ② 広告料収入を認める(但し、アンダーライティング広告のみ)
  ③ 国会中継はNHKに放送を義務化

◇メリット
 M1. NHK存続の道筋
  現状分析)NHK受信料の減少は続く
       a) WOWOWなど有料放送契約者の増加
       b) NHK不祥事による未払い拡大(対象者の三割、不払いへの罰則規定なし)
       c) 少子高齢化による人口減少社会
発生過程)NHK受信料を放送の対価とし、広告収入を認めることによりNHK存続への道筋がつく

 M2. より質の高く多様性のある番組
  現状分析)放送業界は閉鎖的かつ画一的な番組しかない、独占的な体質が問題
  発生過程)質の高い番組の蓄積があるNHK参入により放送業界全体の競争が激化し、番組構成が多様化する

 M3. 真の公共放送の実現
  現状分析)予算や意思決定などを国が握っている
  発生過程)民放化により国の影響力を排除

いつもは反対尋問と最終弁論を担当するキングリュウキによる肯定側立論は久しぶり。いき なりガツンとかます作戦である。壮大な哲学に裏打ちされた立論は観客をうならせる。プラ ンは簡素ながらよく配慮されており、第一反駁~最終弁論にかけて有効に機能することにな る。メリット3点は綿密な現状分析に基づき、発生過程を示す分かり易い構成であり、立証責任を果たしていると判断した。

■<否定側尋問>
ディベートキングを防衛して波に乗る久保田の反対尋問。
肯定側立論を哲学からメリットに向けて、ブロックごとに分かり易い尋問を展開した。
受信料の定義を変更する点、公共放送と商業放送という二元体制が商業放送に一元化される 点、受信料収入に加え広告収入も認められる点など肯定側プランの本質を明らかにする的確 な尋問が続いた。
メリット2の発生過程に対する尋問では、コンテンツの多様性が生まれる論拠を「視聴率に よる競争」という言質を引き出した点が秀逸。NHKが市場競争、視聴率競争に巻き込まれる ことを示唆する意味で有効な尋問であった。

■<否定側立論>
◇哲学:二元体制による市場競争の影響を受けない公共放送の維持

◇放送の二元体制
 A) 公共放送 ⇒受信料収入で運営
 B) 商業放送 ⇒広告料収入で運営
 ※肯定側プランにより、公共放送がなくなり商業放送に一元化される点を強調

◇デメリット
 D1. 情報格差が生まれる
発生過程①)NHK有料化そして電波のスクランブル化により収入の低い人が公共放送を受 信できなくなる
発生過程②)障害者向け番組が減り、社会的弱者が情報を入手する手段が減る
  深刻性)憲法で保障された「国民の知る権利」を侵害

D2. 民業圧迫
  現状分析)TV業界の広告費市場は2兆円で安定的に推移、パイの拡大の見込みは薄い
  発生過程)複数チャンネルを持つNHKが民放各社との競争に参入することで民業圧迫になる

◇メリットへの反論
 M1. NHK存続
  ⇒NHK視聴率は下がっている点を指摘、有料化および広告料による収入がどの程度になるか示されていない為、肯定側プラン導入後も先細り懸念は払拭できない。

 M2. より質の高く多様性のある番組
  ⇒NHKが民放化することにより、視聴率獲得に向かう為、質はむしろ低下

 M3. 真の公共放送の実現
  ⇒デメリット1「情報格差が生まれる」ことは公共性を失わせる結果につながり、社会的弱者を切り捨てることと同義

引き続きディベートキング久保田の否定側立論、穏やかな口調ではあったが、肯定側スタンスと 真っ向から対立。否定側プランは現状維持。NHK財政基盤の危うさを認めつつも、肯定側メリッ ト1「NHK存続」に対する的確な反証を行うことができず苦しい展開。この点で否定側は最後ま で苦しむことになる。
デメリット2点は、インパクトこそ不透明であったが、現状分析・発生過程が明確であり立証責 任を果たしていると判断した。

■<肯定側尋問>
BMを代表するパフォーマー中西による反対尋問。カテゴリー分けして畳み掛ける反対尋問は軽妙 かつ大胆なもので観客の心を大きくつかむ。
のっけから否定側の論理矛盾を指摘。「NHKの視聴率が下がっている」という主張と「NHKが独占 して民業を圧迫する」という主張が一貫していない点を明らかにした。
その上で「現状維持による受信料収入の先細り懸念」「TV業界の広告費用総額が2兆円に対して、 日本全体の広告費市場規模では5兆円規模である点」「民放にも質の良い番組がある点」「民放 連による番組構成の義務付けがある点」などを次々と否定側に認めさせた。肯定側第一反駁と最 終弁論をにらんだ反対尋問は、大きくポイントを稼いだ形となった。

■<否定側第一反駁>
大会には久しく姿のなかった高澤による否定側第一反駁。高澤は冷静に肯定側メリットを以下の 3点から潰しにかかった。
 M1) NHKの収益は安定化しない
 M2) コンテンツ、番組の多様化はもたらされない
 M3) 全国一律の公共放送が崩れる

M1に関しては、若い世代がほとんどNHKを見ていない現状を示す証拠資料を提示した上で、肯定側 プラン導入後のNHKの収益基盤に不安がある点を指摘。NHK再生プランおよび日本人のモラルの高さ で、現状のNHK受信料制度を守っていくべきと主張。しかしながら、肯定側尋問で「現状維持によ る受信料収入の先細り懸念」を認めている以上、日本人のモラルに依存する否定側スタンスが説得 力を持たなかった点は否めない。
M2に関しては、規模の大きく、チャンネル数でもアドバンテージのあるNHKがパイを奪い取る為、 競争によるコンテンツの多様化にはつながらないと主張したが、ここでは「NHKが提供する番組の 質が低下する」という観点からの反証がより効果的だったと思われる。
M3に関しては、公共放送の定義を争点に挙げて反論。有料化により国民全てがNHKを見ることがで きなくなることで全国一律の公共放送が脅かされると主張し、反駁を締めくくった。
基本的には否定側立論の焼き直しという形。ネガティブブロックをうまく活かし切れず。肯定側立 論をこの時点で返しきっているとは言えない展開となった。

■<肯定側第一反駁>
反対尋問で調子に乗った中西による肯定側第一反駁。否定側デメリットを以下の2点から反証。

 D1) 情報格差はデジタル化進行に伴い発生する
 D2) NHK参入によりTV業界全体のパイが拡大する為、民業圧迫にはならない

D1に関しては、NHKのBSではスクランブル化が既に始まっている為、デジタル地上波が始まる時点 で不払いの人間はNHKを受信できなくなり、いずれにせよ情報格差が生じると反論。
D2に関しては、現在の民放のぬるま湯体質がTV市場2兆円に留まっている理由と指摘。NHK参入によ る競争拡大により、放送業界全体のパイである5兆円を奪う可能性を示唆。

デメリットの反証に加えて、メリット1「NHK存続」に対する否定側スタンスを攻撃、日本人のモラ ルに期待するのは人任せなプランと切り捨てた。重要な争点である「コンテンツの質」に関しては、 スポット広告を認めるプランが番組の質を高める効果を持つ点を主張。うまく肯定側第一反駁で切 り返すことに成功した。

■<否定側最終弁論>
高澤による最終弁論、スパークが必要な場面。現状の公共放送そして二元体制の優位性を強く打ち 出すべく、否定側立論の再構成を試みるが、うまく波に乗れない。ナンバリングラベリングによ る整理がない為か、逐次的な主張に終始してしまった感は否めない。肯定側の優位をひっくり返す ポイントを上げることはできなかった。

■<肯定側最終弁論>
キングリュウキによる最終弁論。NHK問題をどう調理仕上げるか、大きな期待がかかる。
日本の国民、NHKそして民放の各立場から見た、以下の重要ポイントから切り込んでいった。

 A) 視聴者の納得が得られる受信料制度とは?
 B) 日本の放送業界に競争や多様性はあるのか?

その上で、肯定側メリット三点に関して、肯定側プランの優位性を端的に整理していく。

 M1) NHK財政基盤の問題に解決の道筋をつける肯定側プランは、日本人のモラルに依存する否定側プランに勝る
 M2) 競争のないの日本の放送業界には市場競争が必要であり、それがコンテンツの差異化・多様性を生む
 M3) 否定側プランではNHK存続も危うく、公共放送自体の存続が危うい。国による影響力の排除が真の公共放送を実現し、ひいては民主主義の向上につながる

否定側デメリットに関しては、肯定側プランが現行の受信料2500円と同額である点を強調、貧富の差 による情報格差は起きないことをカバーして締めくくった。「すっきり」感のある最終弁論は多くの 観客を魅了し、会場に一体感をもたらした点で大変優れていた。

■<判定と総括>
論理の一貫性、目指す哲学の大きさで勝る肯定側の勝利。

否定側デメリットの判定に関しては以下の通り。
デメリット1「情報格差」の発生過程②が残ったと判断したが、インパクトが示されていなかった。
また肯定側プラン「受信料金額の据え置き」に深刻性を打ち消された形。
デメリット2「民業圧迫」はTV業界の広告費のパイである2兆円を日本全体の広告費5兆円に拡大する 視野を見据えた肯定側に軍配があがった。

肯定側メリットの判定に関しては以下の通り。
メリット1「NHK存続の道筋をつける」は、「現状維持による受信料収入の先細り懸念」を認めたに も関わらず、日本人のモラルに解決性を依存した否定側の作戦ミス。
メリット2「より質の高く多様性のある番組」は、現状の民放の閉鎖的・画一的な体質の証明が大き なテコとなり、肯定側プランの有用性が認められた。否定側からは「NHKが提供する番組の質が低下 する」という観点の反証はなかった点が悔やまれる。
メリット3「真の公共放送の実現」は、肯定側プラン「受信料金額の据え置き」が国民の「知る権利」 を大きく侵害するものではないという前提の元で、肯定側の主張が通った形。

内容的には大きく肯定側が上回っていたが、否定側は内容・争点ともに噛み合い、第一反駁までは一 歩も譲らぬ展開を演出。見ごたえのある中盤戦であった。しかしながら、最終弁論で大きく差が開い てしまった点は、否定側の反省材料。肯定側キングリュウキによる最終弁論をお手本に今後の参考に してもらいたい。

以上

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