2014.2.13.(木)
井上晋の「賛否両論のための基礎知識」
第3回 「日本は、救急車を有料にすべし」(2014年2月13日)
時事問題がわかる BURNING MIND主席講師・井上晋が贈る『賛否両論のための基礎知識』 第3回
関東では20年ぶりという大雪でした。
なれない雪道にすべって怪我をされた方も多くいらっしゃいましたが、皆様はいかがでしたか?
今回取り上げるテーマは、そんなときに心強い救急車のお話です。
ずばり「日本は、救急車を有料にすべし」。
あまりメディアで取り上げられないテーマですが、
深刻な問題があり、かつ、今の日本が抱える多くの問題と共通した原因を抱えています。
また、この論題は現在開催されている第10期「使えるディベートセミナー」での課題ともなりました。
さっそく問題の現状分析をしてみましょう。
消防庁の発表によりますと、
平成24年の救急車の出動件数は、580万2,049件となっています。
平成14年では、455万5,881件ですので、10年でおおよそ27%の増加になります。
また、現場の救急隊員数は大きな増加はなく、6万人前後で推移しています。
現場は、かなり過酷なことになっていると想像されます。
この出動件数の増加の一番の原因は高齢化によるもので、
現場の方々の回答でも66%(複数回答可)を占めています。
まさに、日本が抱える少子高齢化の問題に起因しています。
一方で、「不適切利用者の増加」29.9%というのも見逃せません。
ひどい話ですが、無料であることをいいことにタクシー代わりに救急車を利用している人もいるという事例も数多く見受けられます。
これらの現状から、
救急車を有料にして、無駄な利用を抑制しようというのが今回の論題です。
肯定側の論は、とてもシンプルに出来上がります。
制度に甘えているフリーライダーを抑止するため、
有料化により利用を思いとどまらせようという論旨です。
とある調査報告によると、1回の利用を2万円以上にすると、明確な抑止効果があるとされています。
これが、実現すると、
無駄な出動がなくなり、本当に必要としている人に対する迅速な救急活動が行えるようになる。
徴収した料金を利用し、救急医療の充実がはかれる、
といったメリットが出てきます。
より充実した医療を必要としている方々に対しても
これまで以上のケアを行えるようになり、
まさに、いいことづくめです。
一方、否定側の主張は、
弱者の切り捨てになるという論旨です。
本当に緊急を要する際に、
お財布が気になって、手遅れになってしまうのであれば、
助かる命が助からないといった本末転倒の事態になりかねません。
救急車の利用者の約6割が高齢者で、
かつ、高齢者の一人当たりの平均所得が190万円ほどという現実を鑑みれば、これも大きな問題です。
こうなってしまうと、どちらにも十分な主張があり、判断に迷うところです。
冒頭に「日本が抱えている問題の共通点がある」とお伝えしたのも、まさにこのポイントです。
つまり、医療に対するケアをどこまで自己負担とし、どこまで公共機関が負担するのかという問題です。
この問題は、これからの日本が、いわゆる大きな政府を目指すのか、それとも小さな政府をめざすのかという問題に直結します。
もう一つ共通の問題としてあげられることがあると思います。
それは、モラルや倫理の問題です。
救急車の利用が増えている背景には、高齢者の人数が増えているのは論を待ちませんが、
一方で、無駄な利用が増えているのには、日本人全体のモラルや倫理感が低下しているという問題もあるのではないでしょうか。
「人様に迷惑を掛けてはいけないよ。」
「自分のことは後回しにし、周りの人を思いやりなさい。」
「お天道様に恥じない行動を。」
などなど、日本人が大切にしてきた和の精神や譲り合いの精神が、
「自分さえ良ければ」
「タダなら使わないと損だ」
「利用できる権利は、なんでも利用しよう」
というミーイズムに浸食されているのではないでしょうか。
言うまでもなく倫理は自律的なものであり、法は他律的なものです。
この二つは補完的な関係にあるのですが、他人に律せられることばかり増える社会というのは息苦しい(生き苦しい?!)社会です。
消防庁が頑張っている啓蒙活動で、事態が改善されることを願ってやみません。
http://www.fdma.go.jp/html/life/kyuukyuusya_manual/index.html
それでは、ご機嫌よう。