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2014.8.14.(木)
ディベートコーチ・オクヤマの「直言居士で失礼いたします」
第21斬 「ウクライナ危機と日本のチャンス」(2014年8月14日)

ほぼ月イチコラム ディベートコーチ・オクヤマの「直言居士で失礼します」 第21斬

「ウクライナ危機と日本のチャンス」



皆様、こんにちは。

最近、ヨーロッパでのホットな話題と言えば、
WHOが緊急事態宣言を出した、アフリカにおけるエボラ出血熱のニュースと、
ますます混迷を深めるウクライナを巡るロシアと西欧諸国の対立です。

前者に関しては、まさに命を賭して、
現地で感染者の治療にあたっている現地医療関係者の方々の尽力に対し、
ただただ頭が下がる思いです。エボラ出血熱の鎮静化を心より祈っています。

後者に関しては、一見、日本への影響はあまりないように感じますが、
今回のコラムの中で、実は日本にチャンスが訪れているということを、
ネオ・ディベートの手法を用いて紐解いていきます。

そもそもウクライナ危機って何?
という方も多いはずですので、かいつまんで概略を説明します。

7/17、ウクライナ東部にて、
マレーシア航空17便が撃墜され、298人が死亡するという悲しい事件がありました。

その事件を巡って、航空機撃墜の裏にはロシア軍の関与があるとする西欧諸国と、
撃墜事件の責任はウクライナ政府にあるとするロシアとの対立が深まっています。

現在の状況を簡単に説明すると、ウクライナへの介入を強めるロシアに対して、
アメリカを始めとする欧米諸国が制裁措置を発動する事態にエスカレートしています。
当然、日本も欧米諸国グループに属していますので、ロシアを非難する立場です。

詳しくは、8/5に外務省HPで更新された下記URLをご参照ください。

 ■外務省「ウクライナにおけるマレーシア航空機撃墜事件」
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/ua/page22_001235.html

一方、欧米諸国の制裁に対して、8/7にロシアも逆制裁政策を打ち出しました。
農作物や食品の輸入禁止を発表し、その対象国は米国・カナダ・EUなどになります。
とりわけ、EU諸国への経済面でのマイナスは甚大と言われています。
(注)幸運なことに日本はロシアの制裁措置から外れています(詳しくは後述)

加えて、ロシアのメドベージョフ首相は、欧米の航空会社が、
ロシア領空を通過することを禁ずる検討に入ったことを明らかにしました。
欧州とアジアを結ぶ便の多くがロシア上空を通過しているだけに、
実現すれば影響は非常に大きいものになります。

さらには、EU諸国はロシアが産出する天然資源に依存しており、
ロシアが天然ガスや原油のEU向け輸出を止める事態になれば、
ヨーロッパにおける混乱は、更に深まることになるでしょう。

このように、欧米諸国vsロシアの制裁合戦は、
世界経済における最大の懸念事項・不安定要因になりつつあります。

ひとつ気になるのは、今回のウクライナ危機に関して、
欧米とロシアのメディアの報道姿勢が極端に違っている点です。

欧米のメディアは、当初から親ロシア派勢力が撃墜したと決めつけています。
しかし一方、ロシアの国営TVニュースでは、ロシアに罪をかぶせようと、
ウクライナ政府が証拠をねつ造していることを証明しています。

いったいどちらが正しいのでしょうか?
はっきり言えるのは、欧米とロシア、どちらが正しいとははっきり言い切れないということです。
つまり、単一メディアの主張を鵜呑みにしないことが大切ということです。

ネオ・ディベートでは情報の鮮度・精度・確度を重要視します。
これはビジネスにも当然あてはまる考え方です。
間違った情報をもとに構築した仮説は当てにはならないからです。

複数の情報源を注意深くあたることは、物事の本質に近づく大前提ともいえます。

続いて、キャスト・ライトアップの手法を用いて、
ウクライナ危機に関する各国の立場をさらってみます。

端的に言うと、旧冷戦時代の対立に類似した構図が浮かび上がってきます。

◆ロシア

 1)安全保障上、不凍港(クリミア軍港)としている
   ⇒つまり、クリミア自治政府のロシア編入は何としてもゆずれない

 2)クリミアに近接するウクライナがEU側に取り込まれるのは避けたい
   ⇒ウクライナへの強い継続的な介入、場合によっては侵攻もやむなしという姿勢

 3)ロシア経済は原油輸出に頼っている
   ⇒天然資源輸出停止というカードはロシアにとっても致命傷になりかねない

◆アメリカ

 1)シェール革命によりエネルギー輸出国として今後ロシアと競合する
   ⇒ロシアの天然資源輸出停止はEUマーケットに食い込むチャンス

 2)世界の覇権争いの筆頭は中国として警戒している
   ⇒ウクライナ危機でアメリカの存在感・影響力の低下を見せることはできない

 3)ロシアの台頭は西側諸国の安全保障上好ましくない
   ⇒ロシアによるクリミア軍港の確保(=クリミア自治政府編入)は何としてでも防ぎたい

◆EU諸国

 1)エネルギー供給の大半をロシアに依存している
   ⇒ロシアとの対立はできれば避けたい

 2)安全保障をアメリカに依存している
   ⇒アメリカの独走に巻き込まれてしまっている

 3)ロシアの台頭は西側諸国の安全保障上好ましくない
   ⇒ロシアによるクリミア軍港の確保やウクライナへの介入をやめさせたい

先述した点に戻りますが、
なぜ、ロシアが逆制裁措置の対象から日本を外したのでしょうか?
それはプーチン大統領のしたたかな判断に基づいています。
アジアのG7加盟国である日本を取り込むことで、米国の独走を防ぐという狙いです。

こうしたロシアからのアプローチは日本にとっては大きなチャンスです。
中東からの天然資源輸入に頼る日本と原油の輸出先を広げたいロシア、
まさに利害が一致する部分です。

また、オホーツク海の海洋資源の共同開発、膠着した北方領土の解決など、
対ロシア外交における山積した課題を一気に解決するチャンスと捉え、
安倍政権にはしたたかに立ち振舞ってほしいと強く希望します!!

なお、”キャスト・ライトアップ”の詳細については、
バーニングマインド・理事を務める太田龍樹の著書
『ディベートの基本が面白いほど身につく本(中経出版)』
で詳しく説明されているので、参考にして下さい。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました!!

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