2018.8.29(水)
アビコ青年のディベート事件簿
File68「“情”のもつ力」(2018年8月29日)
本日のテーマは、「“情”のもつ力」です。
■頭を抱えた後輩
他社の後輩が会社で出された課題に頭を抱えていました。
その課題とは、「今ある自分が抱える課題と、その解決策を考えよ」というもの。
本人は上司や同僚から「人の気持ちが全然わかってない」という、
かなり強烈な指摘を受けていることを打ち明けてくれました。
やはりというか、実は私も同じことをその後輩に感じていました。
彼に「何が原因だと思う?」と尋ねてみました。
「きっと私が論理的に話せていないからだと思います。
もっと上手く説明することさえできれば、
そんな誤解を受けることもないと思うんです。」
この言葉を聞いた瞬間に、
「ああ、だから○○君はダメなんだな…」と思いました。
■「論理力を強化したら、君は余計嫌われるよ」
彼はすべて理屈で解決できると思い込んでいました。
ですが、彼の抱える課題の本質は、実はそんなところにはありません。
日頃から彼を見ていて決定的に欠けているものは、次の2点でした。
・「相手の立場に立って考える」視点
・コミュニケーションでは言葉以外に重要な要素があることを知らない(分かっていない)こと
たとえば、いつも彼の話は「自分中心」。
自分が興味をもったことは、相手の気持ちなどお構いなしで聞いてしまいます。
未婚で50代の女性社員に向かって「なんで結婚しないんですか?」と唐突に質問した時は、
私もみかねて彼をたしなめました。
ですが、「え?でも、なんで結婚しないのかなぁって思ったから」と、
むしろ自分の正当性を主張する始末。
こんな感性でいくら論理力を強化しても、余計に面倒くさい人間になるだけ。
―――ということを、全部彼に伝えました。
■リーダーに求められる「情」とは
「〈東京大学の名物ゼミ〉人の気持ちがわかるリーダーになるための教室」(大岸良恵/プレジデント社)によれば、人がついてくるリーダーには「情」が必要としています。
本書でいう「情」とは、
夏目漱石が「精神作用には、知・情・意の3つがある」と説いたことに由来します。
「知」は知識や知恵。
「意」は強い意志と意欲、自律と自立。
「情」とは、他人の気持ちをわかろうとすること。
そして「情のあるリーダー」は、ただ真実を突き止めようとするのではなく、
部下の言葉を受け止めることを優先するものであり、
そのためにも、「情のあるリーダー」を目指すには人間というものを知るために、
自分の中にある「引き出し」の数を増やす努力をすべきと著者は説いています。
そう考えれば、件の彼がすべきことは論理力の強化ではなく、
まずは人の気持ちを理解できるように努力することです。
「思い込みを排して、相手の話を聞く」
「これを言ったら相手はどう思うのか、思いを馳せてみる」
「自分の意見が“誤解”されているのではなく、そもそも誤っている可能性を認める」
そのほうが屁理屈ばかり達者になるより、よほど彼を魅力ある人間にするのは明白です。
■AI時代に対抗するには、AI人間にならないこと
チェスの世界ランカーにAI搭載のロボが勝利する時代。
確かに論理的な分析力・洞察力では機械が人間を凌駕する時代も目前です。
ですが、それに対抗する方法は、なにも論理力の強化だけではありません。
むしろ、機械には理解できない「情」の世界で勝負すればいいのです。
コミュニケーションに悩みがあるから、即「論理力強化!」というのも同じこと。
たとえAI並みに論理でその場を押し切れても、そもそも相手は「情のかたまり」の人間です。
仮に「なぜ結婚しないのか?」を質問する正当性を無理やり説得できたとしても、
その後の人間関係にはしこりが残るでしょう。
言うまでもなく、「情」の部分は完全に置き去りにされているのですから。
本コラムを読んでくださる皆様には言うまでもないことですが、
ネオ・ディベートで考えれば当然のことです。
「ロゴス」だけでは説得できないのが人間。
だからこそ、「パトス」と「エートス」を理解し、実践で磨く必要があるのです。
以上
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