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2018.8.21(火)
アビコ青年のディベート事件簿
File67「“体育会系”とコミュニケーション」(2018年8月21日)

ほぼ月イチコラム アビコ青年のネオ・ディベート事件簿 file 67

本日のテーマは、「“体育会系”とコミュニケーション」です。

■日大アメフット部の問題

食傷気味な感はありますが、やはりこの問題を避けては通れません。
日大アメフット部の悪質タックル問題です。

記者会見を観る限り、
日大選手は誠実な人柄の持ち主であることは十分伝わってきました。
そのうえで、約1時間の会見を観て、私は違和感を覚えました。
というのも、彼が頻繁に発した言葉があったのです。

「それは僕が語ることではない」

世間的には自らの過ちから目を背けない姿勢が高く評価されていますが、
果たしてそれだけで済ませていいのか疑問です。
私には、体育会系の縦社会が、
弱冠二十歳の学生に無言の圧力をかけているように見えてなりませんでした。

言いたいことは山ほどあっても不思議ではありません。
監督、コーチに対する不満が臨界点を越えたからこそ、
世間に素顔をさらしてまで異例の記者会見をしたのです。

それでも言えない現実。
これは弁護士からの入れ知恵だけではないように思います。

■体育会系で尊ばれる“人付き合い”

今回の問題では、指導者側と学生の認識に大きな乖離があります。
指導者の言い分は、要約すれば「私たちに悪気はなかった」。
一方、学生側は、「自分の意思に反して、反則を強要された」。
見解は真っ二つに割れています。

私はここに、体育会系のコミュニケーションが生み出す弊害を感じます。
古い体質の体育会系で求められるコミュニケーションを一言でいえば、
「先輩の言うことは絶対。ただ言われる通りに従うのが美徳」です。
(知識のある方には、「他者説得を甘んじて受け入れ、一切文句を言わないこと」といえば分かりやすいかもしれません。)

ですが、これでは両者の意見が食い違うのも当然です。
言われる側は、たとえ納得していなくても「はい!」としか言えないのです。
そのうち、一方的に言う側(指導者)も、
自分が言いたいことはすべて受け入れられていると錯覚し、
感覚が麻痺していきます。
そもそも両者が本音で語り合う機会がほぼ皆無であれば、
正常な意思疎通などできるはずもありません。

■「自己検閲」―それは、自らを縛る鎖

そのような体育会系の“美徳”がまかり通っている世界にあって、
記者会見をした日大選手が本音を言うのはかなりハードルが高いはずです。
何か本音で話してしまえば、そのあとにどうなるか分からない恐怖。
言ってもいい状況とはいえ、言い知れぬ不安はぬぐいされない現実。

そんな中では、自らの発言を誰に言われるわけでもなく、
自主規制してしまう心理が働いたとしても不思議ではありません。
彼の言葉や表情の端々からは、
自らの心を縛り上げる鎖が見え隠れしているように感じました。

■旧態依然とした「体育会系」からの脱却を

社会に出ると、体育会系の人材は“使える”ともてはやされる傾向にあります。
どうやら立場の上の者からすると、扱いやすいのがその理由のようです。
確かに理不尽なことを多少言ったとしても、
文句も言わず即答で「はい、わかりました」としか言われなければ、
こんなに素直で扱いやすい人材はいません。

ですが、果たしてそれだけでいいのでしょうか。
“指示を受ける”立場から、いずれ“指示を出す”立場になります。
その時、本当に正しい指示を出せるのでしょうか。

自ら考え、時に議論し、試行錯誤を繰り返し経験しているからこそ、
初めて他者に対して適切な指示・指導ができるはずです。
そもそも指示を受けている段階でも、
一から十まで指示待ちではお話になりません。
いつまでも新人ではいられないのですから。

その意味で、日大アメフット部の監督の“指導”は、
本当に学生の将来を見据えた指導だったとは言えません。
ただ単に、試合に勝つための“駒”として扱っていたようにしか思えません。

はっきり言えることは、選手は決して“ただの駒”ではありません。

■体育会系に限定させてはいけない

ここまで言って矛盾するようですが、
この話は決して体育会系に限った話ではありません。
上下関係のある人間関係や組織では、
同じような事象が十分起こりうるからです。

立場を勘違いし、悪用する輩が後を絶たないからこそ、
セクハラやパワハラが横行しているのが現実です。

言いたいことがあれば、言えばいい。
きっと上の立場にいる人はそういうでしょうが、
それが言えるならとっくに言っている、というのが下の立場の者の本音です。

コミュニケーションはお互いの本音を言える安心感があってこそ成立するもの。
そんな基本的なことを改めて考えさせられる出来事でした。

以上

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