論題
BM -夏の陣2005- エキサイティングバトル東西対抗戦 第3試合
「日本は、いわゆる第3のビールに対し課税強化すべし」
講評:中村雅芳
肯定側:奥山真
否定側:井上晋
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 11名
肯定側 11票(59.2P) 否定側 0票(51.18P)
■<概 略>
ビールではなくともビールに近いものにはそれと同等に扱うべきだとする肯定側。
食卓を飾る上でビールとは別の目的で開発された製品に同じ税を課すことは無理があると主張する否定側。
争点をきちんとつかんでいる両者は、相手の隙をつきそして自らは隙を見せないよう警戒する、玄人ディベータの組み合いを見せてくれた。
■<肯定側立論>
◇定義:第3のビールとは
┗◎税金逃れのための法の隙をついたビールである
◇哲学
┗◎国は同等の製品には同等の税率をかけるべきである
◇観点:ビールと同等である理由
┣①外見が類似している
┣②醸造過程でビール酵母を使用している。
ビール酵母はビール醸造の主要な工程である、発酵に
欠かせないビールの主役である
┗③効用が同じである
満足感が似ている
◇プラン
┗◎酒税法を改正する。課税区分を原料ではなく醸造過程で区分けし
ビールと同等のものは「ビール類」としその課税を一律にする。
◇メリット
┣①税収減回復
・酒税は税金全体の27%を占める大きな要素である。
これが先細りしてしまうと将来の税収に与える影響が大きい。
・徴収義務をまっとうできる
┗②企業のメリット
・企業と国とのイタチゴッコがなくなる
税金逃れの開発を目指すことがなくなり、長期ビジョンが
立てやすくなる
ビールと同じであるのかないのか、メリットよりも基盤となる背景を固めることで、自ずとメリットを生じさせる構成の組み方は奥山得意の哲学重視ディベートである。
全体的にはよくまとまっており、分かりやすい立論であった。
■<否定側尋問>
なぜビールと同じであるか、という観点に突っ込みが入る。
パッケージが似ていればそれは同じビールである要因になるのか→ならない。
法の網は整備すればなくなるのか→なくならない
このあたり、自分の主張に余地を残させる井上独特の尋問である。
■<否定側立論>
◇定義:第3のビールとは
┗◎シーンや飲まれ方を重視したスッキリ系のビールである。
開発工程も出来上がった製品も従来のビールと異なる。
◇哲学
┗◎納税者を無視した施策は国民の信頼を損ねるだけである
◇メリットへの反駁
┣①税収減は回復しない
・発泡酒がブームになった2003年、税収が落ちている。
┗②イタチゴッコはなくならない
・法の網がなくなることはありえない。これは永遠に
続く問題である。
◇観点:ビールと同等である理由への反駁
┣①外見が類似している
似ていれば同じ区分けにするのであれば
他のアルコールにも適用できてしまう。
それは国民も望んでいない
┣②醸造過程
ビール酵母を用いていても麦芽やホップを用いているわけではない
┗③効用
ビールと同じ効用として作られていない。
evi)サッポロビールマーケティング部長
苦味やスッキリを求めている輩がおおく、ビール離れが
進んでいる。これを解消したのが第3ビール。
肯定に対する反駁は、やはりビールと同じであるかないかの部分に集中した。ここからもお互いが争点をきちんと把握できていることをうかがわせる。
ただし構成の中にデメリットを入れてもよかったのではないか。このあたり、敵の土俵で戦っても計算できる井上の余裕か。
■<肯定側尋問>
第3ビールがビールと異なる点を追求する。
肯定側はのどごしや着色有無など即答であったが、定量的でインパクトのある回答を示すことができない。
簡単にはメリットの確認だけをして終了。
■<第一反駁~最終弁論>
否定側の主張として、観点②に追撃する。
酵母が同じであれば、同じビールに区分けされるという主張が成り立てば、企業は新味や新素材を用いた開発に着手しなくなる。
続いて③へ。効用はアルコール度数に依存するわけではない。苦味度数を見ればビールが30.4 第3ビールは10.9と大きな差が出ており、数字上からも違った製品であることが伺える。
一方、肯定側は争点をビールか異なる飲料かに定め集中的に詰める。
①見た目を似通ったものにしているのは、どうしてもビールと混同させたいからだ。企業の税逃れという意図がここに見え隠れする
②技術革新によって法を見直すことは悪いことではない。ビール酵母は醸造におけるキーファクターであり、ここが一緒であるのならビールと同義に限りなく近い
③ビールの味は多種多様。スッキリ味を求める商品は第3ビールだけではなく、従来のビールにもある。
さらには否定側が挙げていた苦味のデータに反論。
苦味差の近い商品を選べば、ビールが17.9 第3ビールも17.9と数値が等しくなるものもある。資料の引用方法について否定側の印象を見事にダウンさせた。
肯定側は自ら"ビール類"と定義し、その醸造過程とキーファクターまでをも調べる念入りな準備が論の基盤を支えた。
一方、否定側はローキックを何度も入れられ足元がフラフラになりながらもかわし続ける。が、効果的な有効打が飛び込む前にタイムアウトのホイッスルが吹かれた。
■<判定と総括>
肯定側の念入りな準備は否定側を寄せ付けず快勝。
争点を絞って徹底的にかつ丁寧に論じる奥山のディベートは隙が見当たらない。
一方いつもはその立場にいる井上が、この日は場当たり的なガードに終始してしまいパフォーマンスを発揮しきれなかった。
が、やはりこのBMをリードする2人の対決はオーディエンスをわくわくさせるオーラがある。
今年まだ1敗もしていない奥山は、もはや負ける気がしない。そんなオーラを醸し出している。欲を言えば、この男により一層の歯切れのよさが加わったら、キング最有力ではないか。
その歯切れのよさをいかんなく発揮したのは、第2試合の中西。2人の得意分野を合致させた東軍が見事3連勝し幕を閉じた。