講評

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論題

BMニューディベートフロンティア2005 タッグ巴戦 第1試合
「日本政府はデノミネーションを実施すべし」

講評:久保田浩

肯定側:本間賢一・中村雅芳 
否定側:奥山真・井上晋 
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数10名
肯定側0票(48.54P) 否定側10票(58.90P )

上述の【結果】でも分かるように、ジャッジ総数10票のすべてが否定側に入る完全勝利であった。 肯定側は、デノミの実施が円の威信向上と、国際化につながると いう哲学のもと、4つのメリットをあげてきたが、それぞれのメリットが発生する論証が明確でない、あるいは発生してもインパクトが小さい等の理由により、否定側に完敗を喫した。 一方、否定側は肯定側のメリットをうまくつぶした上、"国民の視点"から、デメリットが発生することで勝利をもぎ取った。 以下、詳細を見ていこう。

■~肯定側立論~
肯定側は円の威信の向上と国際化を哲学にあげ、デノミネーションを行うべしとの論を展開。
メリットは次の4点。
M①:円の威信が向上すること。鈴木先生の本の中からエヴィデンスを用いて、途上国なみにある円の単位を変更することが、恥ずかしさを是正することにつながる、つまりは円の威信が向上するとした。
M②:円の国際化。使い勝手を良くすることが、円の国際化につながるとし、現状ドル・ユーロに比較しほぼ100倍の単位にある円が使い勝手が悪いとした。
M③:機能向上。米ドルの価値を直感的に理解できるなどの機能向上につながるとした。
M④:国内の経済活性化。シミュレーションのデータを用い、2兆1600億円の経済効果が生まれるとした。

■~否定側立論~
一方、否定側はその立論において、デノミを国際化にはつながらない、また経済的には逆にダメージを与えるという哲学のもと論を展開。
デメリットは2点。
D①:2兆円程度の経済効果と言っても、その大半は金融界が背負う。 この金融界はいまだ、不良債権の対応に追われており、ここでの2兆円の追加コストは大きなハンディとなる。ちなみに、98年の不良債権残高22兆円が2年後の2000年に20兆円と2兆円しか減少していないことで2兆円のインパクトを訴えた。
D②:民間の手間増大。国民にとってのデメリットとして、使用する際の手間が増大することを挙げた。また、肯定側のメリットについては、次のような反駁を行った。
M①:円の威信向上にはつながらないこと。現時点はインフレではなく、物価水準も安定していることを理由にあげると同時に、肯定側の用いたエヴィデンスが成り立っていないとした。
M②:使い勝手が良くなるのか、仮にそうであっても直接的な原因にはならないとした。理由として、経団連があげている「交渉力がない」こと、また輸出入を同じ通貨で行い為替リスクを回避する「マリー」の存在、また、不良債権をかかえる現状の日本お金融システムにおいて、信用力が低いこと、さらには安全保障的な軍事力がないこと等の理由を挙げた。
M③:なぜ機能向上につながるのか、主観的な言葉である「直感的」という理由では分からないとした。
M④:D①で述べた通り、あるいは哲学でもあるように逆にデメリットにつながるとした。

■~尋問及び反駁(最終弁論)~
ここでは各々のメリット・デメリットを一つずつ見ていこう。
M①について:
肯定側は明治からのインフレが是正できていないなどの論証を行ったが、否定側は現状の円が安定した通貨であるエヴィデンスを用いるなどして、威信向上というメリットにはつながっていないことを論証。これについては否定側の論証通り発生過程が示されていないとし、M①はたたないと判断した。
M②について:
現状の日本における状況、つまり金融システム不安、及び軍事力等を鑑みると決して信任が高いとは言えず、使い勝手を良くするだけで国際化にはつながらないとする否定側に対し、肯定側は3桁表示で価値尺度の劣る円の使い勝手が向上することのみが国際化への布石になるという論を貫き通した。ここまで、お読みの方は既にご理解いただけたかと思うが、使い勝手向上以外に何の反論も出来ていない肯定側は立証責任を果たせていないのである。よってこのメリットもたたないと判断した。
M③について:
どの程度の国民がどの程度理解しやすくなるのか、具体的なことが何も論証されない「直感的」であるため、このメリットもたたないとした。
M④
について: これは結論で言えば、D①と相殺される形となった。コストとみるか経済効果と見るかは表裏一体の関係にあり、どちらも有効打を放つことが出来なかったため、ここについては両者イーブンとした。
D②について:
これについての肯定側からの反証はなかったため、このデメリットは国民のデメリットとして残った。ただし、否定側においてはそのインパクト等の説明が具体的にはなかったことからその効果は限定的ととらえた。

■~まとめ~
これまで見てきたように、肯定側のあげてきたメリット4点については、そのすべてが否定側につぶされ、一方で否定側のあげたデメリットの2点目が"国民の"デメリットとして残ったため、否定側の勝利とした。
オーディエンスも含め、すべてのジャッジが否定側勝利としたものの、その内容は否定側が完膚なきまでに肯定側をたたいたというよりも、立証責任を果たすことなく自滅していった肯定側の試合展開にあったと思われる。

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