講評

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論題

BMニューディベートフロンティア2005 第2試合
「日本政府は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に経済制裁すべし」

講評:奥山真

肯定側:本間賢一・(中村貴裕)
否定側:井上晋・ディベーターB
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数19名 肯定側7票(55.00P) 否定側12票(58.04P)

■<概   略>
肯定側は「経済制裁というムチこそが北朝鮮のコントロールに有効である」とする立場を主張。証拠資料を豊富に使ってメリットの立証を試みるも、主張を裏付ける論拠に乏しく、立証不十分という立ち上がり。一方否定側は、尋問から激しく畳み込む理想的な展開。前半戦の時点で肯定側不利が明らかとなるが、肯定側本間は不利を全く感じさせない落ち着いた態度で、肯定側第一反駁・最終弁論を展開。試合的には肯定・否定の攻守が入れ替わる見ごたえのあるディベートとなった。しかし、ディベート的には肯定側の立論でのビハインドを引っくり返すことができず、またデメリット3点が全て残り、
否定側の勝利となった。

■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『テロ国家にはムチ=強硬な態度が必要』
◇プラン3点:『経済制裁を行い、人・カネ・モノを封鎖』
 ┣①為替法改正による日本から北朝鮮への送金禁止
 ┣②特定船舶入港禁止法で日本への停船を禁止
 ┗③2005年4月までに拉致問題に進展がなければプラン実施
◇メリット3点
 ┣①拉致問題解決
 ┣②北朝鮮の不誠実な態度是正
 ┗③北朝鮮の軍事力低下

M1、M2の発生過程として「ムチ」の有効性を証拠資料を挙げて説明するも、「経済制裁というムチ」が北朝鮮に与えるインパクトの大きさを説明することができず、立証不十分と判断した。またM3に関しては、日本から北朝鮮へのカネ・ハードの輸出を止めることが北朝鮮の軍事力を低下させるという発生過程であったが、こちらも定量的な視点が全く抜け落ちていた為、メリットとしては非常に弱いものとなった。哲学も判断基準として全く機能しておらず、肯定側の大苦戦が予想される。

■<否定側尋問>
否定側井上の尋問は質・量ともに非常に優れていた。特にメリットの論拠が明確に示されていない点を指摘し、肯定側立論の立証が不十分であることをジャッジに強くアピール。

D1に関しては、経済制裁という切り札的外交カードによる北朝鮮の暴発リスクを指摘。北朝鮮にとっては、受け入れるか武力行使かという選択肢しかないので、定量的なリスクを50%と言い切ったが、何故半分半分の可能性であるかの説明がない為、この点は評価しなかった。
D2に関しては、核問題解決が日本の個別問題である拉致問題よりも優先順位が高いとし、肯定側プランにより北朝鮮の態度が硬化することで6ヶ国協議を妨害すると主張。日本の国益に照らしてデメリットのインパクトを示せなかった点が残念。
D3に関しては、北朝鮮国民の困窮度を栄養失調率やストリートチルドレンの実態によって示し、日本による経済制裁が北朝鮮国民をさらに苦しめることにつながる、と主張。肯定側と同じく経済制裁が北朝鮮にとってどのくらいのダメージなのかという点に関しての説明が抜け落ちており、論証としては弱いと判定した。
一方、肯定側立論に対しては、北朝鮮の対日本との貿易量が減少しており、かたや韓国・中国との貿易量が増加している証拠資料を提示した上で、肯定側プランは有効ではないと反証した。

■<肯定側尋問>
前半戦で早くも劣勢にたった肯定側本間だったが、たんたんとした尋問を展開。しかし、デメリットに関する質問に終始した感があり、肯定側立論を補強するための質問は唯一、「北朝鮮がアメリカを恐れているか?」というもののみ。肯定側第一反駁⇒最終弁論と、この点を軸に肯定側主張を補強していくこととなる。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
一気に勝負を決めたい否定側井上は、経済制裁自体は国連憲章41条・42条で認められてはいるが、外交カードとしてはギリギリの選択であることを、IAEAの査察を北朝鮮が1994年に拒否した例を挙げて説明。米国による経済制裁の前に在韓米軍を一万人以上増員した、という証拠資料で、経済制裁という外交カードの持つ意味を間接的に証明、経済制裁がD1「戦争リスクアップ」につながることを補強。
一方、肯定側本間は劣勢を全く感じさせることのない落ち着いた反論を展開。D1の反証として、北朝鮮に石油がない点、経済的には韓国・中国が支えるという点を指摘、戦争リスクは少ないと主張。またD2の反証として、6カ国協議では核問題が解決しない理由を、北朝鮮の安全保障が核兵器が持つ抑止力に依拠している為とし、核兵器を持っていなかったイラクが結局アメリカに攻撃されてしまったことを例に挙げて、反証を補強した。M1とM1に関する補強として、北朝鮮がアメリカを恐れていることを前提に、北朝鮮にとって日本はアメリカとの間の緩衝材の役割を果たしている点を強調。日本が経済制裁という強硬な態度にでれば、北朝鮮は譲歩せざるを得ないとまとめた。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
やや肯定側に押し返された感じで迎えた最終弁論。再度、押し戻したい否定側ディベーターBだったが、逐次的でややキレのない否定側最終弁論となってしまった。立論の再構成という位置付けの最終弁論でありながら、第一反駁のような構成や論証であってはいけない。一方、否定側本間の最終弁論は、燃え尽きそうなメリットを細々と生かし、否定側デメリットを論理的につぶし切ろうという戦略。量的には多かったが、肯定側立論および哲学が弱過ぎる為、立論の再構成がきかなかった点は、第一反駁と最終弁論に頑張っただけに本当に残念。

■<判定と総括>
肯定側立証責任を果たせず、否定側デメリット3点とも残り、否定側勝利。肯定・否定ともに国益という観点が欠如。経済制裁という外交手段を論じている為、国益の定義なしの議論は小手先だけになる恐れがある。また、経済制裁の定量的なインパクトに関する議論が不在だった点は、肯定・否定の両ディベーターともに反省してもらいたい。

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