論題
BMディベートGP2004 ファイナル 決勝
「日本政府は、カジノを公認すべし」
講評:久保田浩
肯定側:本間賢一
否定側:井上晋
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数6名(オーディエンスは全体で1票)
肯定側 59.45P(3票) 否定側 43.68P(3票)
■<概 略>
お互いの哲学において、カジノを善とする肯定側と悪とする否定側が真っ向からぶつかる戦いであった。
各々の立論及び尋問までにおいては、激しいバトルが展開されその後に期待が持てるスタートであった。が、反駁及び最終弁論においては、論の伸びが見られず、いささか残念な印象を受けた。
結果については、メインジャッジは否定側の勝ちとしたものの、サブジャッジ団4人は2:2。そして本大会において大きな点数ウェイトを与えられたオーディエンスは、7:3で肯定側。大きなねじれが生じたが、オーディエンスによるジャッジが大きく作用する形で肯定側の勝利となった。
ねじれ発生の原因は、肯定側のたてたプランからメリットが発生する過程(メカニズム)が見えないとして、そのメリットが発生しないとしたのがメインジャッジによる判断であったのに対して、オーディエンスはこのメリットを発生するものと捉えたものと思われる。以下、詳細を見ていこう。
■<肯定側立論>
◇哲学、理念
『国民にとっても国にとってもメリットがある』
◇プラン3点
┣P1 カジノ導入
┣P2 すべて民営による運用
┗P3 規制についてはラスベガスと同様とする
◇メリット3点
┣①国民にとって楽しみが増えること。
発生過程は、ギャンブル欲が人間の根本にあるというエヴィデンス、
海外のカジノにおける年齢構成を見ると、高年齢者が多いこと、あるいは
女性が多いことなど、また都内における「地下ギャンブル」の存在をあげた。
┣②雇用促進
室伏氏の引用から、30万人-40万人の雇用促進につながることをあげた。
┗③税収があがる
国にとってのメリットである。同じく室伏氏の引用で、
2兆円-3兆円の税収アップをあげてきた。
■<否定側立論>
◇哲学、理念
『カジノ導入が社会・人心を混乱させる』
◇デメリット3点
┣①ギャンブル依存症の増加
APA(アメリカ精神医学協会)によるギャンブル依存症の定義を用いて、
100万人-200万人まで膨らむ恐れがあることを指摘した。
理由としては、24時間営業であることをあげた。能見氏の資料は公表されてない
┣②不正や悪が入りやすい
金銭そのものがやり取りされるため。アトランティックシティーでの
実例をあげた。同シティーにおいては、カジノ導入により警官を増員したにも
かかわらず、犯罪が25%もアップしたというのである。
┗③青少年への悪影響
IDカードの存在しない日本において、悪影響が少なからず生じてしまうことを
指摘。実際、たばこやお酒についても規制出来ていない事例をあげた。
肯定側のメリットに対しては、公営ギャンブルが儲かっていない事実をあげて、
雇用促進、及び税収アップにつながらないと反駁を行った。
■<反駁~最終弁論>
・メリット①について:
これについては肯定側、否定側ともにギャンブル=カジノは楽しいものとした。
が、否定側はこれが「快記憶」に刻み込まれ、ギャンブル依存症につながる恐れが あるというデメリット①につなげた。
これに対して、肯定側は100万人-200万人ものギャンブル依存症発生を否定し、 海外の事例をもとにプレーヤー人口の1%程度でおさえられ、その インパクトは小さいとした。
・メリット②、及び③について:
否定側は肯定側のあげた、雇用増加、税収アップの数字が試算であることを指摘し、現在の日本におけるほとんどのアミューズメント施設が赤字で あることをあげた。
一方、否定側は
・デメリット①について:
上述の通りで、ギャンブル依存症発生のメカニズムを論証した。
・デメリット②について:
アトランティックシティーでの犯罪件数増加に対して、肯定側はその間、住民の人数も増加していることを背景に、犯罪率がアップしているかどうかは これをもってしては分からないとした。
また、ラスベガスにおいては、逆に犯罪件数が減少した事例をあげてきた。
・デメリット③について:
否定側はその重要性について、若いうちからギャンブルに関わることが、さらにギャンブル依存症の増加につながることを論証した。
■<総評>
これまで見てきたように、メリット①については、肯定・否定ともにギャンブルは"楽しい"という立場から残るものの、一方でその楽しさが「快記憶」に刻み込まるという、デメリット①とデメリット③が残った。
デメリット②については、肯定・否定がそれぞれ海外の事例として、犯罪が減少した事例、及び増加した事例を持ち出し、それ以上、論の展開が見られなかったことからイーブンとした。
問題となるは、メリット②及びメリット③の扱いである。上述した通りであるが、メインジャッジは、雇用増加、税収アップのそれぞれがプランから導き出されるメカニズムがないことを理由に、これらの論がたたないとしたのである。
一方で、オーディエンスはこれら二つのメリットが残るとしたのであろう。それにより、メリット①とメリット②及びメリット③が、デメリット①と デメリット③を上回ると判断したオーディエンスは7:3で肯定側とした。
結果、このオーディエンスの票が大きく作用し、メインジャッジとの間にねじれが生じ、肯定側の勝利となった。