論題
BMディベートグランプリ2004 予選リーグ~決勝トーナメント:決勝トーナメント第2試合
「日本政府は、遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の生産・販売・輸出入を全面禁止すべし」
講評:中西夏雄
肯定側:ディベーターC
否定側:井上晋
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数11名
肯定側 50.94P(1票) 否定側 57.7P(10票)
■<概 略>
肯定側が、遺伝子組み換え食品(以下、GMO)を全面禁止して「食品の安全確保」を主張するのに対し、否定側はGMOを安全として「食の確保」を主張するという真っ向からの対立となった。
肯定側が掲げた「安全」が、少々分かりづらかったのに対し、否定側はGMOが安全面では従来の食品となんら変わることがないこと、そしてGMO禁止のデメリットを見事骨子である主張「食の確保」に結び付けることができた。
■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『食品の安全確保』
◇プラン2点
┣①遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の生産・販売・輸出入を全面的に禁止
┗②非GMOをEU圏内より輸入する措置
◇メリット2点
┣①食品の安全確保
1. 生命倫理に反していない事
→GMOは種の壁を越えるから危険
2. 食品添加物と同等の安全検査
→GMOは殺虫作用を含ませるなど、いわば「添加」されたもの。しかし検査受けて
いないため危険
3. 検証期間があること(急性、慢性とも)
→従来品種は平均15年、GMOは数年程度しかない。また検証方法も急性反応のみで、
なお危険
4. 散布する農薬量
→実はGMOは従来品種よりも農薬量アップ(米国8州の実例で2-5倍に)
┗②収穫量の維持
安全基準4と絡め、GMO→農薬量アップで、実際に米国8州で7%の収穫量ダウンが
確認されたことを、朝日新聞の記事より引用
~メリット①の安全基準が不明瞭も、メリット②は非常に面白い着眼~
メリット①について、4つの安全基準を見てみると、1はBSEの例を出すも、GMOの手法を考えれば情緒的な感が否めない。
2は食品添加物とGMOを同一視することに疑問を感じること、また3の検証期間については、従来の期間が果たして妥当かどうか不明である。
しかし、4はエビデンスを用い、非常に説得力があり、さらにメリット②へとつなげて、生産効率を掲げるGMOが、実は収穫量ダウンを招くという、非常に面白い説を披露してくれた。
■<否定側尋問>
4つの安全基準について、丹念にしかも攻撃的に肯定側とのズレを狭めていく。
具体的には、1の深刻性として挙げていたBSEが、GMOと同じ手法による結果なのか、2は「添加物」という化学物質と、遺伝子組み換えは異なるものなのに、どうして同等の試験がないと安全と認められないのか、3は長ければいいのか、適正な期間とはどれぐらいなのか、と。
ここでの応答で、肯定側の骨格が既に歪みを生じはじめたと感じたのは、ジャッジの私だけではないだろう。
■<否定側立論>
◇哲学・理念:『食の確保』
リスク・コミュニケーション(消費者へリスクの適切な提示)しながら、
GMOを利用する
◇デメリット1点:GMOで享受できるメリット3点が失われる
1. 生産性の効率(コスト・手間)→米国イリノイ州農家の農薬が減ったという
2.実例(毎日新聞2004.10より引用)環境にやさしい→GMOは不耕起栽培が可能。肥沃な土壌、土壌中の農薬が流れ出てしまう問題を解決
3. 食品の可能性→GMOは花粉対策など、食品に医療的側面などの新たな機能を付け加えられる。
~GMOは安全と反論した上で、それを前提にメリットが失われることを
デメリットとして訴える~
◎GMOの安全性
GMO技術は、遺伝子組み換え(または組込み)であり、利用するのは遺伝子そのものではなく、変化するタンパク質。だから、肯定側のいう友食い(BSEなど)でもなく、化学物質の添加でもない。よって危険はゼロ。
◎肯定側プランによって失われるGMOのメリット
効率性の良さについては、肯定側の安全基準4、ならびにメリット②に真っ向から反論した。ここは、まさにエビデンス勝負とも言え、その正当性が問われるところだが、内容は同等、否定側エビデンスは2004.10と肯定側よりも新しいため、否定側に軍配ありと判断した。
環境への良さ、食品の可能性については、いささか説明不足も感じたが、GMOのメリットとして提示することは成功した。
■<肯定側尋問>
GMOの安全性に尋問を集中。しかし、ここは逆に否定側にGMOとは遺伝子組み換えによって変化するタンパク質を利用することであり、遺伝子組み換えそのものを危険視するのはおかしいという内容を主張させるパートになってしまった。
■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、GMO全面禁止が「食の確保」にどの程度影響を与えるか、具体的に数値(値段の30%アップ)を示し、哲学にあたる部分を補強し、さらに大きな争点となっている「安全性」について、厚生労働省による安全チェックという補強と肯定側が基準とする検証期間について反駁をおこなっていく。
対する肯定側は、否定側の「食の確保」に対し、非GMO作付け面積の1/10しかなGMO作付け面積の分から輸入がなくなったとしても問題ないと反駁した。ここまでは良かったが、最大争点の「安全性」についての反駁が少なく、GMOを推進している企業の問題や、スーパー雑草の出現脅威などについて時間を割いてしまったのが残念であり、逆にここに肯定側の苦しさが見えたような気もした。
■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側は、哲学に立ち戻り、GMOの良い面と悪い面を理解した上で、そのメリットを享受しようと見事にまとめていった。さらに否定側反駁についても、安全性以外の争点についてもことごとく返していき、「食の確保」については、EU圏内でもGMOが認可されつつある現状を踏まえ、GMOなしでは成り立たない「食の確保」という哲学を見事に論証した。
対して肯定側は、ここで致命的なミスをしてしまう。反駁で「食の確保」に問題なしとしていたのが、「食糧問題は分配問題だ」という論を展開してしまい、反駁から始まった迷走がここで確実のものとなってしまった。その後は、終始、立論の繰り返しにとどまった。
■<判定と総括>
肯定側は、自ら「食の安全」をメイン争点にしていたが、否定側の「GMO安全宣言」の前に屈してしまい、勝利を得ることが出来なかった。しかしメリット②の内容としてあげていたGMOは農薬量が増える、収穫量が減るという考察は非常に新しく、面白い着眼であり、ここを膨らませることができれば、結果は違ったものになっていたかもしれない。
否定側は、遺伝子組み換えによって、植物、食物にどのように作用し、何が変化するのかという部分を緻密に調べ上げ、ややもすると水掛け論になってしまう「安全性」について、きっちりと判断基準を与えられたことが勝利の要因といえよう。ただ、立論の構成がややわかりづらく、もう少しラベリングが良ければ、より説得力のある立論となるだろう。