論題
BMディベートグランプリ2004 予選リーグ~決勝トーナメント 予選リーグ第6試合
「日本政府は、遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の生産・販売・輸出入を全面禁止すべし」
講評:中村雅芳
肯定側:中西夏雄
否定側:久保田浩
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数6名
肯定側 53.62P(5票) 否定側 53.58P(3票)
■<概 略>
肯定側の主張は、遺伝子組み換え食品(以下、GMO)を全面禁止して「人間」「自然」それぞれを予期せぬ危険から守ると主張した。
一方否定側はGMOが従来の品種改良と何ら変わらないと主張。実際にGMが原因かと疑われている事件を例にGMOの安全性で真っ向からの対決となった。
■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『人間の都合で人間・自然界へ予期せぬものを用いるべきではない』
◇プラン2点
┣P1 2005年よりGMOの生産・販売・輸出入を全面的に禁止
┗P2 非GM食品の輸入ルートを確保する
◇問題点
┣①GMが原因とされるトリプトファン事件で38人死者が出た
┣②GMで混在される不純物は危険である
┗③除草剤耐性の雑種が増えている
◇メリット2点
┣M1 人間に安全
GMOが日本にこなければ安全であることを東京新聞の記事より引用
┗M2 自然に安全
雑種との交配がなくなることにより除草剤耐性の雑種がなくなる
M1の人間に対する安全面、これが肯定側の生命線である。GMOがもたらす危険性の説明にある程度の時間を割き、細かく現状を分析した。またそれと合わせて輸入ルート確保の説明も行った。M2の重要性のインパクトは証明し切れなかったが立論の構成はシンプルで分かりやすかった。
■<否定側尋問>
生命線である安全面の論拠を徐々に紐解いていく。まずはトリプトファン事件の原因がGMOではないことを認めさせようとするが、完全には詰め切れなかった。輸入ルートの確保に関してアメリカ以外の国々、特にEUで補填できるかの説明を求めた点と、M2の重要性である、雑種が自然界を乱すことによるインパクトの説明を突いた部分は迫力があった。
■<否定側立論>
◇哲学・理念:『GMOは品種改良と何ら変わらない』
◇デメリット2点
┣D1 GMOをなくすと食料供給不足を助長してしまう
┗D2 GM技術の可能性を失ってしまう
◇肯定側への反論
┣M1 実質的同等性であることを日本政府の論をもとに説明
┗M2 GMOが無くても環境破壊は進むし、逆に賢く使えば問題ない
D1は、特に日本の食事情を説明。食糧自給率が低い現状では代替ルートの確保が難しいこと、そして米国からの反発も懸念されることをうたったが、あまり具体的でなかった。D2はGM技術の可能性を説き、賢く使えば効果的であることを述べたが、その論拠の説明までには至らなかった。
メリットへの反論もあったが、その論拠がやや薄いのと、エビデンスの出展にやや偏りがあった点で、高得点は期待できないか。
■<肯定側尋問>
代替ルートが確保できないことの証明を求めた点はGood。反駁でのデータ戦線に期待が持てる。また実質的同等性をうたっている日本政府の話は、アメリカともめたくない弱腰の立場を考慮すると信用できないのではないか、との尋問は非常にインパクトがあった。
このあたりの尋問からも最近の好調さがうかがえる。
■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、哲学であるGMOと従来の品種改良との比較に重きをおいた。
従来も安全とは言えず、GMOのリスクも従来とは変わらないことを説明。また食糧確保において、トウモロコシの輸入量1200万トンは非常に大きく代替ルート確保は難しいこと、食糧危機が起きたら現在の耕地では賄いきれないことも説明したが、どちらも客観的な指摘がもう一つほしい。
対する肯定側は、否定側の哲学に真っ向勝負をかける。GMOと従来の品種改良の最大の違いである、種の壁を越えることこそ人為的かつ強引であることをアピール。実質的同等性価値の希薄さと、自然界は人間の力でコントロールできないことを楯にし、安全性に疑問符を打ち続けた。この時点ではやや肯定側優勢がうかがえる。
■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側は最終弁論でこれまでの議論を再度繰り返す。トリプトファン事件はGMが原因ではないこと、GMはこれまでの品種改良と同リスクであり、実質的同等性も何ら変わらないことをもう一度アピールすることで自論を補強した。
対して否定側は大きなミスをしてしまう。トリプトファン事件は和解によってGMが原因なのかは追及されていないことをエビデンスをつけて示す。が、この事件は肯定側がGMの危険性を証明するための生命線だったのではないか。輸入ルートを変更できることも示したが、その数値根拠の正確性にも疑問が残る。
この最終弁論で形成は逆転した。
■<判定と総括>
ポイントは肯定側の出した「安全性」が残ったかが問われる。そのキーはトリプトファン事件であったが、肯定側最終弁論で、自ら墓穴をほったことによりM1は崩れてしまった。だが最近の好調ぶりが示すとおり、パトスで訴える肯定側の反駁にオーディエンスは知らず知らずのうちに魅了されていた。
対する否定側のD1食糧供給はトウモロコシだけでなく、さらに異なった角度から実行可能性を否定できればよりインパクトを与えられたのではないかと思われる。
結果、メインジャッジが否定側を推したにも関わらず、決勝トーナメントへの切符をつかんだのは肯定側であった。
わずか0.04ポイントという差がこの試合の接戦ぶりを証明している。