講評

講評

論題

BMディベートグランプリ2004 予選リーグ~決勝トーナメント 予選リーグ第5試合
「日本政府は、遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の生産・販売・輸出入を全面禁止すべし」

講評:中村貴裕

肯定側:奥山真
否定側:中村雅芳
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数6名
肯定側 67.6P(6票) 否定側 50.2P(10票)

■<概   略>
GMOの撤廃により「食生活と生活環境への安心と信頼感」を取り戻すと主張する肯定側に対し、GMOを安全かつ食品の将来を担う重要技術と位置付け、GMOによる食確保を主張する否定側の、真っ向勝負となった。
肯定側の オーディエンスにわかりやすい立論、否定側の 鋭い質問攻撃。
そして否定側質問に対し、認める部分を素直に認めた上で堂々と受け答え、逆に質問で波状攻撃をかける肯定側。一進一退の、見ごたえあるディベートが展開された。結果は、否定側のあいまいな哲学を見抜き、質問から反駁にかけてここを総攻撃し、最終弁論を哲学比較で締めくくった奥山真の勝利。
67.6Pのジャッジポイントを得て予選1位を決定させた奥山真の、「存在感」「強さ」が存分に立証されたディベートであった。

■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『日本人の食生活と生活環境へ 安心と信頼をもたらす』
◇GMOの問題3点:
 ┣①曖昧な基準(混成毒性試験等、行われていない試験がある)
 ┣②不安全な技術(未知な技術で、毒物が混じる可能性がある)
 ┗③チェック方法の不備(100ppm以下の検査は、現状では難しい。)
◇プラン2点
 ┣①遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の生産・販売・輸出入を全面的に禁止
 ┗②食料自給率の向上
◇メリット2点
 ┣①食品の安全性の維持
   GMOの問題点(上記3点)を解消する
 ┗②生態系の維持
   GMOはバイオハザードにつながる。メキシコでは100km離れた場所にGMOが
   拡散しているとの事例。

~オーディエンスへのインパクト~
肯定側は、現状GMO食品を列挙した資料をオーディエンスに提示した上で、現行GMO技術は問題あり、安全性、生態系を守るべくGMO廃止すべしと主張。
オーディエンスは、現在の日本の食卓にGMOがどれほど出回っているかのインパクト、問題の深刻性を感じた。自信に満ちた話し方で、構成もわかりやすく、すばらしい立論であった。

■<否定側尋問>
肯定側が定量的データを提示してない事を察し、攻撃開始。M1に対し、現状の安全性リスクによる危険度がどれだけ存在するのかについての数値データが無い事、M2に対し 生態系変化が人類の生活にとってどれだけインパクトあるか、の数値データが無い事を認めさせ、立論への勢いをつけた。
しかし肯定側も負けてはいない。「定量データは無い」とキッパリ言い切るその言動は、徹底的なリサーチを行っている証拠であり、すぐに「データは無いものの、食の安全や生態系を脅かす具体的な事例は既に発覚しており、これらは間違いなく存在する」と切り返す。
その堂々とした受け答えの姿は、直立姿勢で手をかざしながら すべての攻撃を封じ込めたマトリックスのキアヌリーブスを彷彿させた。

■<否定側立論>
◇哲学・理念:『食品の将来を担うGMO技術は今後も使うべし』
◇デメリット2点:
1. GMOの魅力を手放す
(1)食の確保の道を消す(GMOの優れた技術により、アフリカの労働力が確保できて
  いる事、使用、除草剤が10%減っている事を、愛媛大学HPを引用して主張。)
(2)結果的にコスト増になる
世界の人口が2050年迄に30億人増える(総務省)が、耕地面積はかわらず、食品の定価があがる事は必至。
2. 品質に優れたGMOを 受けれなくなる。
アレルギーに対する効果あり。
◇GMOは安全である主張2点:
(1)農林水産省により、安全性は評価されている。
(2)細胞選抜等、GMOは以前から使っている技術と差はない(アランマキュラン著書を引用)。

~GMOを失うデメリットを提示し、GMOは安全であると訴える~
否定側は、尋問で勢いをつけた上で、GMOを失うデメリットをたたみかけ、GMOはこれまでの技術と変わらない安全技術であると訴える。しかし「食品の将来を担うGMO」と証した哲学とデメリット2点との繋がりが薄い。
また①GMOの魅力として使ったエビデンスが、労働力確保の資料であり、食の確保とは直接つながっておらず、②GMOが安全である事のエビデンスとして、現政府の資料しか用いず、この具体的説明がなかった事が、本試合の勝因に響く事になる。
残念ながら質問時の勢いを、生かす事ができなかった。
いや、あの勢いは 封じ込められたのかもしれない。

■<肯定側尋問>
反撃開始。否定側の論を冷静に分析し、足りてない部分を指摘していく。
まず、哲学にあげている「食品の将来を担う」の定義が曖昧である事を認めさせ、収穫量アップは1.7%に留まる事を確認。また、食の確保であげていたエビデンスは、世界レベルの話であり、日本への影響が述べられていない事や、日本がGMOをやめてどれだけ世界に貢献できるかが述べられてない事を確認。この3分の尋問から、形成が肯定側有利に傾きはじめる。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、ここで再反撃をかけたいところだが、デメリットの論点が遠く、説明が難しい。
モンサント社の調査からの農家コスト削減データ、ストップ温暖化の資料等から、食料確保が世界レベルで今後大切になる事を引用してD1を補強するが、「日本」への影響に話が進まない。逆にGMOは「日本」の厚生省や農林水産省が安全である事を確認している事を強調するが、現行政府はGMO肯定の立場をとっており、その是非を問うディベートでは、有益データとはならず。
対する肯定側は、否定側の「食の将来を担う」と述べた否定側哲学を攻撃、尋問で聞いた内容とも連動させ、1.7%のインパクトは小さいと主張。
また、アメリカデータは日本のような狭い農家には通じない、等、否定側は主張とデータの連携が薄い事を説明した。
また、D2については、有用性がある事はあえて認めた上で、リスクをおかしてまで取り入れる必要性は無い事を主張。逆に、トリプトファン事件の38名死亡、1000人病気という影響の大きさ、この問題が100ppm以下の、現状では検出できないレベルの微量成分から発生している事で、有用性以上に危険性が大きい事を訴えた。
ここは、両意見がある中で、日本政府として とるべき判断の基準を提示した肯定側に、「判断基準の明確性」のポイントを付与した。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側は、世界の人口UPと食料不足を訴え、現状でGMOを廃止すると食の確保が難しくなると改めて主張。そしてGMOには安全基準があると主張するが、行われていない混成毒性試験やトリプトファン事件等についての具体的な反論はできなかった。
残念ながら哲学の「将来の食を担う」の記載が意図するものは、最後まで不明だった。
肯定側は、M1の安全性につき、種の壁を越えるGMOは、技術問題から予期しない影響が発生し、具体的事件につながっている事を主張。そしてM2につき2004年8月の新聞記事で、三重県で影響でている話や、日本に無いはずのナタネが伝播している事から、生態系への影響が実際に出ていると主張。最後には 危険性の存在するGMOを使う事でのメリットが「1.7%の収穫アップしかない」と有用性のインパクトは少ない事を強調した上で、「たとえ有用性あっても必要性の少ない技術については、安全性が確保されない限り使うべきでない」と 試合全体の基準を、立論で提言した哲学に結び付けて見事に纏めた。
肯定側には「論理の一貫性」のポイントを付与した。

■ <判定と総括>
それぞれ論を追うと、
(1)M1の安全基準については、肯定側が立論で述べた「毒性検査試験」が無い、や、トリプトファン事件等についての具体的指摘に対し否定側から具体的な反論がなかった事、そして否定側エビデンスが、現行でGMO容認の立場である政府の資料のみで、今回の「日本政府は現行対応をかえるべき」という論題に対してはこの資料の影響は小さかった為、「危険性あり」と判断した。
(2)M2の生態系への影響も、実際に三重や茨城などで影響でている事から、「影響あり」
(3)と判断した。
これに対し、
(3)D1のコストアップは、データが米国データのみであり、日本に通用するか不明でポイントとはとらず、(4)それ以外のD1,D2(食料確保、優れた品質)は、有用性あるものの、1.7%のアップしか無い事、世界人口やアフリカ労働力等の例が引き合いに出ていて日本に対する影響が見えにくかった部分あり、インパクトに欠けると判断。
(1)~(4)をふまえ、肯定側の勝利とした。

中村雅芳は、尋問の時点では、一見 優位に見えたが、奥山真の 堂々とした応答ぶりに、逆にたじろいでしまった感がある。来年からは、相手の言動に左右されない、より自信に満ちた反駁を見せてもらいたい。
奥山真は67.6PをGetして予選1位通過、そしてコクリツ出場を決定させた。
今回の試合でも、肯定側尋問以降は試合全体を掌握していた。
受けるときはしっかりと受け、自分に不利なデータでもはっきり認める。
そんな防御をしながらもチャンスを伺い、攻める時は タイミングを逃す事なく時間内に集中砲火を浴びせ、反駁でつきつめていく。さらにオーディエンス向けのわかりやすい資料の準備、地に足のついたプレゼン、体から湧き出る自信・・・。
ジャッジポイント以上に 奥山真の「強さ」を感じたのは、私だけではないだろう。
奥山真のコクリツでの活躍を期待する。

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