論題
BMディベートグランプリ2004 予選リーグ~決勝トーナメント 予選リーグ第4試合
「日本政府は、国連安全保障理事会の常任理事国になるべし」
講評:井上晋
肯定側:高澤拓志
否定側:久保田浩
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 13名
肯定側 62.18P(4票) 否定側 56.34P(9票)
■<概 略>
肯定側が打ち出した3つのメリットをめぐる戦いとなった。
ポイントは、肯定立論中段で出てきた、3つの「理由(ワラント)」をどのように判断し、試合に取り込んで行くかということになった。
■<肯定側立論>
◇哲学、理念
『日本の国益(平和、安全、プレゼンスUP)と国際利益(世界平和)』
◇プラン3点
┣①常任理事国を10各国に、非常任理事国を20カ国に
┣②旧敵国条項の削除
┗③新しい常任理事国にも拒否権を与える
◆ワラント3点 ← ポイントとなった箇所
(立論全体からは、やや浮いたパート)
┣①国連への財政的貢献
┣②地域的公平性
┗③国際的コンセンサス
◇メリット3点
┣①日本と世界の安全保障UP
┣②国連の正当性の強化
┗③日本の国際的プレゼンスUP
メリット3点において、それぞれの発生過程には、曖昧な点がのこると感じられたが、立論中段で述べられた3点のワラント(哲学発生のワラントとしてとあわせて、メリット発生のワラントとも捉えた)とともに、それぞれの発生過程を採用。高澤のプレゼンテーションからは、その結びつきを強く意識することはできなかったが、全体の流れより採用した。ジャッジの恣意性の有無が問題となるが、ぎりぎりのラインであると判断した。
■<否定側尋問>
否定側の尋問はやはり、肯定側メリットの発生過程を明確にしようとすることに集中した。しかし、ワラント3点を無いものとして扱っている久保田と、そこに重きを置いている高澤との間で受け答えがややチグハグになっており、残念。
■<否定側立論>
◇哲学、理念
『日本にメリットなし、且つ、国益を損なう』
◇デメリット2点
┣①PKO前面参加のリスク(憲法9条抵触のリスク)
┗②コスト増大
まず、肯定側の明確且つ具体的な哲学に対して、「メリットなし」というのは、あまりに凡庸でインパクトが薄いスタートとなった。
対メリット攻撃は、M①の国連の有効性以外は、単に、質的変化でない(対M②)、国連内でのプレゼンスアップでしかない(対M③)と主張するのみで、有効な論拠とエビデンスを見出せない。M①に対してはイラク戦争開戦の事例などをもとに、国連の有効性を否定。
D①については、豊富な引用をもとにそのリスクを立証。
ただし、D②については、ODAの拠出金額をもとに立証するが、これは、国連分担金とはやや性質が異なるものでは。また、そのインパクトにおいても、久保田得意の「日本の不景気」をあげるが、食傷気味。
■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
久保田は、その冷静な判断より、争点をM①つぶしとD①の伸びに絞った様子。M①については、ソマリア、ルワンダ、などの例を出し、国連の無力さに対しラッシュをかける。しかし、しかしその例がベトナム、IAEAの核問題と拡大するにつれ、安保理問題が国連問題にすり替わりつつあった。ここを、そう感じさせないイリュージョンには、感服。
D①については、ガッチリと論証を重ねる。
一方、高澤は、M①の発生過程を繰り返す。曰く、「常任」になれば、長期的に世界紛争に携わり、平和に貢献できる。また、D②についても見事にその、資金の意味合いの違い
(ODAと国連分担金)を指摘する。
■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
最終弁論では、いくつかの局地戦もあったが、ポイントとなった、D①(9条問題)とM①~③をめぐる攻防に注目したい。
D①については、終始否定優勢のまま進み、高澤からの有効な反証は見受けられなかった。ただし、これが、久保田の哲学『日本にメリットなし、且つ、国益を損なう』にしっくりとなじんでこない。。。ここで、哲学の貧弱さが悔やまれる。
一方、やや荒い構成と繰り返しに陥った肯定最終弁論であったが、高澤のメリットは、◆ワラント3点をレバレッジとし、しっかりと哲学に近づいていた。この、メリットと哲学をダブルで補強した、やや立論中で「浮いている」ようにも見えたワラントが最後まで機能していた。
■<判定と総括>
久保田の流暢なプレゼンに多くのジャッジが目くらましをかけられたが、強い哲学=強いワラント=メリットの大きな機軸をしっかりと守った高澤に軍配。
この大勝利は、高澤の実力と見るのか、はたまた、あまりにも高度な構成は偶然の産物なのか? ワラントの活用をジャッジに、恣意的判断と思わせない精緻さを持ち合わせたとき、GPの中心は高澤になっているかもしれない。
また、久保田には、元ナイトとして、ダブルワラントとなった3点にたいし、真っ向勝負を挑んでほしかった。つまり「お金を出すことが口を出すことの正当な理由にはならない」、「地域的公平性の元は、一国=1票という基準ではなく、人口比であるべき」などといった理論の展開である。
このワラント返しこそが、ディベートの醍醐味であるからだ。
復活の予兆を見せる久保田の大変身ぶりを、コクリツで見たいものだ。