論題
BMディベートグランプリ2004 予選リーグ~決勝トーナメント 予選リーグ第2試合
「論題:日本政府は、国連安全保障理事会の常任理事国になるべし」
講評:中西夏雄
肯定側:ディベーターD
否定側:ディベーターC
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数 13名
肯定側 40.8P(0票) 否定側 51.87P(13票)
■<概 略>
肯定側は、日本が常任理事国になる正当性があること、それによって日本、世界両方への平和貢献ができることを主張するが、日本の常任理事国入り→平和貢献の発生過程が全く述べられず、準備不足を露呈してしまった。
対する否定側は、発生過程を丹念に詰めていきながら、デメリットを述べていき、肯定側を混乱させることに成功、確実に勝利を収めていった。
■<肯定側立論>
◇哲学・理念 『国益(日本の平和)の増進と世界平和への貢献』
◇プラン2点
┣①常任理事国を10ヶ国に増加
┗②敵国条項の削除
まずは、日本が常任理事国になる正当性を説明する。すなわち、
①国連費用への財政貢献(全体の19%)
②拒否権の地域割り振り
③非常任理事国として加盟国中、最多回数による実績
◇メリット3点
┣①日本と世界の安全保障
┣②国連の正当性向上
┗③日本のプレゼンス向上
~発生過程が見えない!~
哲学も結構、プランも結構、正当性についても疑問は残るものの良しとして、さあ、どうして日本の常任理事国入りが3点のメリットを生むのかが説明できていない。
メリット①は、拒否権によって紛争解決というが、当然、紛争は複雑な要素によって起こるものであり、拒否権うんぬんで解決はできない。
メリット②に関しては、現在の常任理事国と違う枠組みから入るからというが、それだけでは不明確である。
そしてメリット③に関しては、国連の権威ある地位に就く=アジアのリーダー→プレゼンス向上という論法だったが、既に中国という常任理事国がいる中で、どうして日本のプレゼンスが向上するのかが、全く述べられていない。
よって、この時点でメリット3点が発生するとはいえず、肯定側は非常に苦しい立場となった。
■<否定側尋問>
やはり、メリットの発生過程を中心に問いを進めていくが、発生過程が述べられていない以上、否定側も尋問するべき内容がない状況となり、ボリュームのないパートとなってしまう。
■<否定側立論>
◇デメリット2点
┣①PKOの全面参加
┗②コストアップ
~デメリット①は有効~
デメリット①の発生過程によれば、
軍事的協力の要請→拒否困難(エビデンスあり)→憲法改正→PKOへの全面参加→テロの標的となる可能性であるが、今ひとつPKOの全面参加が、どのように悪いのか見えづらい。重要性として、憲法改正、テロの標的を挙げているが、例えば、テロの標的となる可能性をデメリットとし、その発生過程にPKOへの全面参加を挙げてもよかったのではないだろうか。
デメリット②の発生過程によれば、常任理事国になるための準備金としてODAが15%アップ、今日の日本経済状況からすれば重要な問題であるとしているが、こちらも今ひとつODAと常任理事国入りの結びつきの説明が弱いため、15%アップが果たして常任理事国入りと直結する問題なのかどうかが不明であった。
上記より、デメリット②は立たないと判断した。
~メリット攻撃~
①については、尋問で同意を得ていた「国連が無視されている現状」を挙げ、国連は安全保障の機能を果たさない、
②については、発生過程である、日本の常任理事国入り→どうして国連の正当性に結びつくのか、
③については、地位は国連の中だけのもの。国連内部でのプレゼンス向上ならいざ知らず、アジアのリーダーなどは無理と、上記のように全て潰しにかかり、この時点で、勝負はあったといえよう。
■<肯定側尋問>
デメリット①に対し、軍事的参加義務あるのか(→ない)、PKO参加がテロの可能性とはどうしてか、コストアップは具体的にいくらなのかなど、デメリットを潰し、なんとか立論での不備を挽回する状況を作り出そうとするも、圧倒的にボリュームが足りなかった。尋問のつく点は間違っていないが、それが相手を苦しめるまで追い詰めることができない。
残念ながら、ここでも準備不足を露呈してしまった。
■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、再度メリットへの攻撃を行い、さらに発生過程のない②については、プルトニウムを保持し核兵器をいつでも作れる日本が、被爆国として非核を訴えても説得力がない、逆に日本が入ることは、正当性を与えないという逆説の論法をとった。さらに尋問で詰められた、軍事的協力の義務の部分でもパウエル国務長官の「改憲が必要」という言葉を引用し、つまり軍事的要求が既にあることを主張して、ほころびを補っていった。
肯定側は、メリット①の補強として、常時決議に加われる常任国の重要性を示すも、それがメリット①の補強となることはない。またデメリット①への攻撃として、①軍事的協力の義務なし②憲法改正しないプランをあげ、反撃の狼煙をあげてはいるものの、否定側の主張する「可能性」の部分を潰すまでにはいたらず、狼煙をジャッジの目に確認させるまでには至らなかった。
■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側のメリットが立たないことの整理と、デメリットの確認をしたのに対し、肯定側はデメリットが発生しないということを述べるにとどまった事からもわかるとおり、立論で立証されていないメリットの補強、哲学の再主張をすることはできなかった。
■<判定と総括>
メリットが潰される以前に、立論の時点で立証することのできなかった肯定側の自滅により、否定側は労せずして勝利を得ることができた。試合自体は、肯定側の低調さに否定側も引っ張られた格好となってしまい、主張しあう醍醐味が見られなかったことが残念。
今回の論題は、国連の機能や、常任理事国の素晴らしさを説くのではなく、そこから一歩進んで、「日本」という国が常任理事国入りする事で、どういう特色を国連に与えることができ、また日本は常任理事国の地位・特権を得て何をしたいのかを語らなければならないと思われる。
しかし、これは、日本という国がどういう歴史を歩み、世界の中でどういう位置付けなのかということをまず知らなければならず、さらに主体性がないと言われている日本を、今後どう捉えるのかを踏まえなければならないため、定番とはいえ、非常に難しい論題であった。