論題
Jr.BM級TOP決定戦
「日本政府は、首都機能を移転すべし」
講評:本間賢一
肯定側:井上晋
否定側:中村雅芳
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 19名
肯定側 58.29P(9票) 否定側 56.41P(10票)
■<概 略>
肯定・否定とも、メリット・デメリットへの反証・及び反証への反証がしっかりしていた試合で、非常に噛み合った面白い試合であった。
■<肯定側立論>
◇哲学、理念
『移転による首都機能の脆弱性の解決』
◇現状分析
阪神大震災級の地震が東京に発生する可能性が大きい。
◇メリット2点
┣①経済の中心と政治の中心の同時被災のリスク回避
┗②東京と他の地方の格差是正
①震災が発生した際、集まれる人員が足りないことをもって、司令塔として、安定した機能を果たせないことを発生過程をあげる。エビデンスもあり、この時点では、立証された形で、否定へとボールを渡した。
②に関しては、経済的に東京一極集中しているが、地方も発展しなければ、いけないと述べる。情報占有率を示すもののそれが何故悪いのかが説得力のある説明が全くなく、重要性及び発生過程が不明。
■<否定側尋問> 中央集権などに話が飛び、メリット①については、バックアップが形だけかもしれないが、存在することを認めさせた。しかし、より発生過程等を詰めるべきだったかもしれないが、メリット①は完全にはつぶせないメリットなので仕方ないであろう。
メリット②に関しては、肯定側が効果を示せていないことを明確にし、観客にアピールできた点では、大きくポイントを上げた。
■<否定側立論>
◇哲学、理念
「環境面でも、経済面でも日本にダメージを与える首都機能移転は実施すべきではない」
◇デメリット2点
┣①環境破壊
┗②財政負担増
①に関しては、国が自ら定めた森林伐採に基準をオーバーすることで、重要性を訴えた。発生過程はプラン即発生なので、重要性が試合のポイントとなる。
②に関しては、日本の財政が危機的であるという分析のもと、GDP低下→日本の財政を訴える。 (ここで発生過程を「GDP低下」としたのが、後ほど勝敗を決定付けることになる。)
メリット①への反証としては、震災で被害を受けるのは、木造住宅であること、及び、霞ヶ関のビルは最近リニューアルされ、倒れないことを述べた。ただし、肯定側は「ビルが倒れる」と言っているわけではなく、「人が集まれない」と主張しているので、その点への反論がなかったのが残念。
■<肯定側尋問>
デメリット①については、重要性を詰めたが、詰めきれず。
しかし、重要性を確認するために、必要な質問であった。
最近、全体的に、相手を攻撃することが尋問パートの目的となりつつあるが、このような相手の論を明確にする尋問は非常に重要であり、井上がこのような尋問をしたことが、この試合が噛み合う試合になった原因の一つだろう。
後は、否定側が引用エビデンスが移転に反対する立場の東京都のものであることなどを認めさせるが、これは、逆に反駁で述べてもよい内容で、メリット①への反論が明確でない印象があったので、内容を確認するような尋問であれば、よりよかったかもしれない。
■否定側反駁以降。
メリット①への反論
○立川に震災対策機能があるので大丈夫
(「日本ではどこでも地震が発生する可能性がある」は、
最終弁論なのでニューアギュメント。)
…「人が集まれない」への反論はないので、メリットが残る。
メリット②への反論
○重要性及び、発生過程が示されていない。
…そのとおり
デメリット①
○国が決めた基準を超える
…具体的に誰がどのようにダメージを受けるかが、
示されておらず、重要性が不明となり立証されず。
デメリット②
(肯定の出した三菱総研の試算を崩せず。)
■肯定側反駁以降。
メリット①
○立川に震災対策機能は実働するか疑問であることを、エビデンス付で反論。
…有効な反論
メリット②
(有効な言及なし)
デメリット①への反論
○日本森林全体から見たら多い量ではない。
…否定のデメリットがまず立証されていないので、反証必要なし
デメリット②
○三菱総研の試算だと、GDPが増えることになっている。
…有効な反論
■<判定と総括>
メリット①経済の中心と政治の中心の同時被災のリスク回避 のみが残り、デメリットは2つとも立証できなかった。(試合で立証したラベルは、もっとシンプルに「政治機能麻痺回避」ではあった)
否定側としては、「日本はどこにいても被災の可能性がある」の反論を早くだしたかったのと、デメリット②の発生過程を移転そのものに係るコストにすべきであったのではないかということが悔やまれる。(そうすれば、発生過程に関してはほぼ反論のしようがない)
一方、肯定側は、メリット②こそ、立証できなかったものの、メリット①の発生過程を「人が集まれない」とした点が非常に優秀であり、それにより、否定に発生過程への反論の余地を与えなかった。
試合は井上の勝利となったものの、ほぼ五分五分のいい試合であった。
中村雅が井上に対して、完全に自信を持って戦っている姿が印象的であった。将棋での好ゲームで「一手指す度に指した方が有利に見える」ということがあるが、BMでも久々に「パートを聞くたびにそっちが有利に聞こえる」試合だったのではないだろうか。
これからも2人には、このような試合を期待したい。