論題
BMサマースラム2004 -破- ディベートマニア予選第2試合
「日本政府は、治安強化のため、警察官を増員すべし」
講評:奥山真
肯定側:木星の蛍(久保田浩・井上晋)
否定側:中村雅芳・本間賢一
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数5名
肯定側 68.00P(5票) 否定側 51.63P(0票)
■<概 略>
肯定側は完成度の高い立論で、見事な先制パンチでスタート。一方否定側は、準備時間が少なかったにも関わらず、激しい尋問をきっかかりに堂々と応戦、前半戦は見ごたえのあるディベートとなった。しかし、反駁以降の試合展開は、立論の差がそのまま開く形となり、哲学のない否定側はネガティブ・ブロックに厚みをもたせることができず、強固な肯定側哲学に押し切られてしまった。肯定側は立論も去ることながら、証拠資料が有効に機能、哲学とメリットが相互結合した一貫性のある主張を展開。ほぼ完勝に近い内容の勝利を収めた。
■<肯定側立論>
◇哲学、理念
『Community Policingの実現』
◇プラン1点
┣①警察官24万人増員
┗②地域のパトロール強化、空き交番問題の改善
◇メリット2点
┣①治安強化
┗②住民の警察に対する信頼感向上
桶川ストーカー事件等をきっかけに「民事不介入の原則」が変わった点を現状分析とした上で、地域の生活・安全に警察が積極的に入り込むことが、治安強化につながると主張。窃盗・強盗件数の急増により、問題の深刻性を訴えることにも成功。警察官増員の必要性を訴求できた。シンプルなプランながら、哲学によるレバレッジが働き、問題解決性をメリット2点で証明。肯定側立論としては立証責任は果たしたと判断した。
■<否定側尋問>
テンポの良さと真っ直ぐにポイントを正す、積極的な尋問が光った。肯定側プランによる具体的な(定量的な)治安改善効果を質した点は、肯定側メリット①「治安強化」を弱め、否定側デメリット①「コスト増加」を大きくするという意味で優れた質問。6万人増員の根拠に対する質問も、肯定側プランの問題解決性に疑義を差し挟むという点で優れていた。
■<否定側立論>
◇デメリット3点
┣①コスト増加
┣②警察の不祥事増加
┗③不快な監視が強まる
財務省の反対を根拠にデメリット①の深刻性を訴えた。デメリット②に関しては、論題にある『治安強化のために警察官増員』と『不祥事増加』との因果関係が弱く、論題充当性から外れていると判断。また問題の深刻性を図る基準も提示されなかった為、デメリットは立証されていないと判断。デメリット③に関しては、発生過程が不明瞭な為、たたないと判断。一方、メリット①『治安強化』に対しては、肯定側プランでは、a)抑止効果がでない b)検挙率があがらない とする二点から反論。a)に関しては、「凶悪犯罪の70%が外国人によるものであり、量刑が甘い為、犯罪抑止力が働かない」とする証拠資料を引用したが、数字の出展が誤っており、有効な反論とはなっていない。b)に関しては、「平成8~13年の間に行われた警察官7000人増員が検挙率向上に寄与しなかった」とする証拠資料により有効な反論と判断した。
■<肯定側尋問>
質・量ともに否定側の一歩上をいく内容。国民が安全に暮らせることの重要性、国民の安全は国の責務であるという点、治安悪化が深刻化している現状、民事不介入原則を変更することが良い、等を否定側に認めさせた点が優れていた。後の反駁にも十分に活きた尋問であった。否定側唯一の反論材料である「平成8~13年の間の検挙率低下」についても、「検挙率は落ちても、検挙数は上がっている」という点を否定側に認めされることに成功し、大きくポイントをかせいだ。
■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側第一反駁は、否定側にとっては、強力なネガティブブロックを完成する為の非常に重要なパートであるが、肯定側メリット2点への有効な反論はなかった。さらには「民事不介入原則を変更することを警察は望んでいる訳ではない」という肯定側尋問での回答とは正反対の主張をしている点は、論理の一貫性においてマイナスポイント。対する肯定側第一反駁は、コンパクトにまとまった質・量ともに十分な内容。特に肯定側哲学がレバレッジとなり、メリット2点を共に強化することに成功。否定側ネガティブブロックが有効に機能せず、ここで試合の大勢は決まってしまった。
■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
最終弁論は、哲学を基準に肯定・否定双方の論を比較検討し、自論の優位性を訴えるパートであるが、哲学不在の否定側は、羅列的な議論に終始、低調な最終弁論となった。肯定側は哲学へ立ち返るスタンダードだが、手堅い最終弁論で締めくくった。
■<判定と総括>
メリットと哲学をがっちり守った肯定側の完勝。
チーム「木星の蛍」のチームワーク・気合・情熱が十二分に感じられた試合であり、8月14日の角筈区民ホールでの活躍がおおいに期待できる。
否定側はデメリットの論証不足、哲学の不在により、反駁以降は単調な試合となってしまった点が残念。