論題
ディベートマニア・カーニバルシリーズ 10月第2試合
「日本政府は、株式会社等の病院経営参入を全面解禁すべし」
講評:奥山真
肯定側:晋選村(井上・ディベーターA)
否定側:HMS 24(高澤・中西)
【試合結果】:否定側勝利
今大会唯一の3人チームであるHMS 24はそのスケールメリット を生かせるか? 「3人チームは弱い」 との定説をひっくり返せ るかが、一つの見所となる試合である。
■<肯定立論>
現状の問題点を3点挙げた問題解決型の立論。「医療分野にお ける聖域なき構造改革」という耳当たりはいいが、少し分かり 辛い哲学で始まる。いきなり重い立証責任を背負った形だ。
問題点3点の現状分析に多くの時間を割いた分、問題解決の発生過程に時間を取ることができなかった。メリットを3点挙げていたが、 実際には問題点の裏返しである。問題解決型立論の構成としては 大変に分かり辛い。メリットのラベルも大いに改善の余地がある。 メリット1「競争による効率化」は、論拠を「競争=効率アップ」、 証拠資料に「個人経営の病院の収益率の良さ」を持ってきて いた為、発生過程不十分ながら、一応メリットがたった形となった。
メリット2,3の立証の途中で時間切れとなってしまったが、問題解決 には程遠く、哲学が完全に浮いてしまった形となった。肯定側立 論の時間切れはまさに「ディベートが泣く」典型と言える。
■<否定立論>
国民皆保険の優位性を前面に立て、憲法25条「生存権」に対する 国民への機会の公平性を機軸にした哲学で始まる。判断基準と しては申し分ない。その上で、利潤を追求する株式会社は日本の 医療とは相容れないと立場を明確化した。
デメリットを3点あげたが、全て論拠の提示のみ。否定側立場への 時間配分を厚くしたツケがでた格好だ。否定側第一反駁で証拠 資料の提示がされるが、立論を反駁パートに引きずっている形 となり全体の構成としては良くない。急ぎ足のまま肯定側メリット への反論へと入り、「メリット2,3は発生過程がないから反論でき ない」と主張。しかしここでは具体的にどういう部分で発生過程 が不十分なのかを主張して欲しかった。メリット1への反論では 「そもそも競争が起こらない、からメリットは発生しない」と主張し、否定側立論を終えた。
判断基準が明確な分、否定側有利に見えるが、肯定側立論に助 けられた部分が大きい。立場の明確化に大きく時間をとられてしまっ た立論構成には改善の余地がある。
■<結論>
・立論パートが終わった段階で肯定側が勝つためには、メリット1を 大きいものにした上で否定側デメリットを潰し切る戦術しかなくなった。
・肯定側尋問の中で「競争が働くこと」へと誘導された為、メリット1 の発生過程が通ってしまった格好となった。否定側反駁の「混合治療を認めないからメリット1がでない」は明らかにニューアー ギュメント。 しかしながら、否定側尋問の中で「現状のムダ」に ついて追求された際、「医薬品の一括買い付け」しか具体的な 効率化の手段を提示できなかった為、メリットとしては非常に 小さいものになってしまった。
・一方否定側デメリットについては、肯定側プランのスパイク「クリー ムスキミング防止」に封殺された形となった。
・しかしながら、肯定側の立証責任を負っていない点、メリット1が 非常に小さい点から現状改革の必要性はないと判断した。
・ディベート自体はあまり噛み合わなかったが、否定側のHMS 24 は3人チームのハンデを乗り越えていると感じる。11月の試合が大変楽しみである。
試合的には完全に否定側勝利に見えたが、実際の内容的には非常に微 妙な差による否定側の勝利と判定した。