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2018.5.3(木)
第59回 「正直者がバカを「見ない」社会」(2018年6月1日)

ほぼ月イチコラム
時事問題がわかる BURNING MIND主席講師・井上晋の『賛否両論のための基礎知識』 第58回

「正直」という言葉を聞いてみなさんは、どんなことを思い起こしますか?

辞書的には、
「正しく素直で、偽り・ごまかしをしない性質・態度。」とのこと。

物心ついた時から、何度となくしつけられてきたこの「正直であること、ごまかさないこと、嘘をつかないこと」は当たり前のことなのですが、現実はそうではありません。

今回は、この「正直」というキーワードを通してここ最近起こっているあれやこれやにつて考えてみたいと思います。

私がパッと思いついたのが、落語の「井戸の茶碗」という噺です。
裏長屋に住む貧しい浪人とくず屋(江戸時代のリサイクル屋さん)と江戸詰の若い藩士のお話です。

浪人がリサイクルに回した仏像の中から小判が出てきたところから、それを安く買った藩士、仲介したくず屋、そして浪人が繰り広げる滑稽噺であり人情噺です。

このお話の中では、それぞれの登場人物が実に正直です。
くず屋さんは、リサイクルのプロとして、自分が決めた買付の値段と売った値段にポリシーがあり、一度口にした金額を事情によって変えることをしません。
裏長屋で経済的に厳しい生活をしている浪人さんも、志は武士としてお金ではなくスジを通すことを自身の規範として考え行動されています。
江戸詰の藩士も、町の人々の生活と筋目を大切にしています。

それぞれがそれぞれの倫理に正直に行動する中で様々な衝突が起こるのですが、やはりスタートが正直な心根からスタートしているので、とても滑稽でカラリとした気分にさせてもらえます。

ネット上にも音源がありますので、是非とも聞いてみてください。(三代目古今亭志ん朝のはお勧めです)

翻って、現在の政治でもスポーツでも起きている衝突は、スタートが嘘から始まる為、なんとも湿度の高い衝突がダラダラと繰り返されているように思います。
あまりにも嘘が多すぎて、私は自分の聞き方が悪いだけで、みなさん本当に記憶をなくしてしまっていたり、会っていなかったり、していたのだろうかと思ったほどです。

そんな中、日本大学アメフト部の反則を犯した部員の会見には心が痛んだと同時に救われる思いがしました。

「そうだよ、正直に反省し、正直に話している人ってこうなるよね!」という感じでした。

子供を叱ると、「ごめんなさい」と泣きながらでも謝ります。
自分で悪いことをしたと思った子供は、素直に謝ります。

しかし、大きくなるにつれて、「素直に謝る」ことが出来なくなってきます。

プライドや立場や、組織を守る為という誤った正義感のためと思います。
長く生きていくにしたがい、いろいろな経験をし、また社会的な立場もでき組織人として振る舞うことも必要になり、善悪の基準がぼんやりしてしまうことは容易に想像できます。

例えば、10代から大相撲の社会に身を置き、そこで大切に育てられ、大相撲という組織があったからこそ成功できた人は、世間一般の善悪の基準よりも、組織を守ることをその職業倫理とするでしょう。

大学をでてすぐに霞ヶ関という組織に属し、寝る間もなくその組織で鍛え上げられた人はやはり、その組織を一番と思うでしょう。

日大アメフト部の彼は、高校生の頃から所属していたクラブでしたが、まだほんの少しの差で、自分の基準で正直になることができたのだと思います。

そういった意味で、今回の日大アメフト部の問題を、
 ・日大の問題
 ・アメフト部の問題
 ・監督コーチの問題
 ・体育会系の問題
といったレベルでとらえていると私たちは、同じことを繰り返すと思います。

これは、個人と組織の関係において、組織の暴走を個が止めることができる社会になっているのかという問題と私はとらえています。

今回の日大の事件は本当にひどいですが、レベルが異なることは日本中で起きています。組織を大切にして生きている私たちは、いつでも加害者になる危険があることを十分に認識し注意すべきと自戒の念を込めて書きました。

さて、3人の正直者が激しく衝突する噺は、最後は心温まるハッピーエンドと良くできたサゲで幕を閉じます。
この話が古典として長い間愛されているのは、正直者がバカを「見ない」社会を多くの人が求めているかだと思います。

皆さんは、どう思いますか


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