2016.7.10(日)
第37回 「民主主義を成立させるもの」(2016年7月10日)
時事問題がわかる BURNING MIND主席講師・井上晋の『賛否両論のための基礎知識』 第37回
「疑わしきは被告人の利に」とは、裁判の原則であり、
「肯定側と否定側が同ポイントの場合は、否定側の勝ち」というのは、ディベートのジャッジのルールです。
なぜ同ポイントは、否定側の勝利とするのかというと、
「現状を変える積極的な理由がないのであれば、今のままで良いでわないか」という考え方からです。
「現状を変える」という言葉には、強い魅力と魔力が備わっています。
オバマ大統領も大統領選挙の時は「チェンジ」というフレーズを多用し国民の心をつかみました。
イギリスの、EU離脱というと歴史的な出来事は、51.89% 対 48.11% その差、3.78%という僅差で決まりました。
一方で、このイギリス国民の求めた「現状を変える」という選択が、本当に熟慮を重ねた末のものであるかについては、その後の報道で、疑わしいところが多々あります。
「現状を変える」という言葉の魔力にのまれてしまった部分があるのではないでしょうか。
現状を変えて良くしたいという情熱は、何にもまして貴重な思いであると思うし、世の中を動かしていく原動力です。
若者がある時期に自分の人生を賭けてみるのは、一か八かの勝負でもいいかもしれない。勢いも大切だしやり直しも聞く。
ビジネスの場合はどうだろうか。
ソフトバンクグループを一代で築き上げた孫正義さんは、70%と言っている。
新しい取り組みやビジネスを始める時に、半々の成功見込では動けない。ただし90%に成るまで検討を続けていたのでは、チャンスを逃してしまうそうだ。 だから行動に出るタイミングは、70%だと。
では、世界を巻き込む一国の重大な政策においてはどうなのだろう。
成功確率と民意のパーセントは、別物であるが、何処までの慎重さで物事の判断をするのかは大切な尺度である。
日本の憲法改正が過半数ではなく、2/3の議決が必要な理由もそこにあります。
多数決は、民主主義を守る優れたツールの一つであるが、民主主義そのものではない。
時間をトコトンかけた意思決定のプロセスこそが民主主義だと思う。
ましてや、現状を変えるということが持つ分かりやすい魅力を考慮すれば、多数決では決めきれないことも多いはずです。
最後に、一般意思と全体意思の違いについて。
フランスの哲学者ルソーは、人民主権を主張し、フランス革命に大きな影響を与えた人物です。
彼はその著書「社会契約論」の中で、個人の私的な利益の総和(全体意思)は必ずしも、社会全体の公の利益と同一ではなく、個人的な特定の事情を捨て去った時の共通の意思(一般意思)だけを頼りに社会が成立するとしています。
「自分は、税金を多く払いたくない」
「自分は、仕事を外国人に仕事を奪われるのが嫌だ」
「自分は、温かい布団で眠りたい」
という個人の個人的な思いの総和は、民主主義を成立させる根拠にはならないと言っているのです。
個人の利益を捨てて、公の視点での利害の総和こそが民主主義を成立させる根拠となりうると言っています。
すごく乱暴に言えば、選挙に参加した人々が、「私がどうありたいか」ではなく「イギリスがどうあるべきか」で投票したかということです。
さて、日本も選挙のシーズンを迎えます。
皆さんはどう思いますか。
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